氷河と動物。

・猫に愛を
※榎本恭二
芳示と雨境と一緒に町を歩いていると、雨境がぴくりと反応する。
「あ、あそこ」
雨境が指差した先には、氷河がいた。
裏路地に近い場所に座り込んで、なにしてんだろう。
声をかけようとすると、雨境に口を塞がれた。
「待てって、恭二！面白いもんが見れそうだから！」
「なんだよーそれー……」
氷河をじっと見てみると、何かに話しかけてるようにも見える。
声は悔しいかな、よく聞こえない。
けどすぐに、氷河の足元にいたらしい猫が逃げ出すのが見えた。
氷河が追いかけて路地裏に入ってしまう。
「追いかけるか？」
芳示が聞く。
俺たちは黙ってうなずいて先に向かった。
裏路地には、先程逃げた猫と別の猫がいた。
もう近くまで来たから、声も聞こえるぞー。
「怪我してんのか……？」
氷河がゆっくりと猫に近づく。
足を怪我した猫は、警戒している。
「誰が、こんなことをしやがったんだか……」
苛立って呟く氷河。
猫は逃げようとするが、怪我のせいで動けないようだ。
「治してやるから、逃げんなって」
別の猫が一声鳴くと、怪我した猫は警戒をといた。
「大丈夫だから、な？」
普段聞かない優しい声色で、猫のそばに座る。
そして、治癒術であっという間に猫の怪我を治した。
成功したのが嬉しいのか猫を助けられて嬉しいのか氷河が微笑む。
動機はなんだっていい。
可愛いから。
「もう大丈夫だろ。」
猫は甘ったるい声で鳴いて、氷河になついてきた。
氷河は微笑みながら、猫とじゃれている。
撫でるだけじゃなくて、抱き抱えて膝にのせたりなんてしちゃってる。
甘えられてるのが嬉しいのか、デレデレだ。
「な、なんだよ……調子のいいやつだな」
氷河って動物好きだったのか、と知らなかった事に驚きつつ、甘い声出せばいいと思いやがって、猫めー！と猫にまで嫉妬していた。
「氷河可愛いじゃん」
雨境がにやにやと笑う。
いつの間に隠れてないで、出てきてるし！？
「雨境！？な、なんだよ……。お前もこいつらに惹かれてきたのか？」
驚いた氷河だけど、雨境も猫だって事を思い出した氷河は猫をみせていう。
「そうだねー、猫は確かに俺の部下だよ。その気になれば使役出来る。」
「なるほどな。さっき、こいつ怪我してたんだよ。変なことさせないようにしてやれよ」
「おろ？今日の氷河やっさしいねー」
雨境が氷河のペースを飲み込んでいく。
氷河は恥ずかしそうに言う。
「……じゃれつかれてる時に、銃とか魔術とか出せないだろ？」
「かわいいなーもう。猫好きなの？」
「好き、なのかな。俺、動物って飼わせて貰えなかったからさ。飼ってたらこんな風なのかなって思っただけだ」
猫を撫でながら、話す氷河がすっげぇかわいくて。
「じゃ、俺は？」
「お前は猫じゃなくて猫又だろ」
「じゃー、吸血鬼はー！？」
「吸血鬼は恭二がいるから……って、恭二！？」
思わず飛び出しちまった。
芳示もゆっくりと出てくる。
「芳示まで……見てたのかよ」
「ああ。お前が動物好きだなんて意外だよ」
「動物だって被害者ってとこあるだろ。人間に利用されてさ。こいつらには、なんの罪もないのに……。」
「自分と重ねてるつもりか？」
「そうかもな。後は、飼わせて貰えなかったから、憧れてただけだ。」
「ああー、お前の親父固そうだったもんなー」
「固そうじゃなくて、固いんだよ。親父のせいで、何もさせて貰えなかったんだからな」
芳示が氷河と楽しそうに会話する。
あー、ずるい！
強引に話に入ってやる！
「でも、今飼えるじゃん！たぶん、来鈴さん怒らないよ！」
「そうだな……。けど、飼わねぇよ。世話できるとは思えないし。」
氷河が猫を放して立ち上がる。
猫は路地裏の奥に消えてしまった。
「それに、邪魔されたくないだろ？」
氷河が悪戯っぽく微笑む。
俺との吸血の時間のことを言っているのだろう。
うん、邪魔されたくない！
「氷河ー！」
「わっ、急に抱きつくなって！」
嬉しくなって、俺は氷河に抱き付いた。
氷河は声だけで迷惑そうにするけど、特に突き放したりなんかしない。
「あー、氷河ずるいなぁ」
「ずるいよな。あんな風に笑われちゃあな」
雨境と芳示も氷河の魅力に崩れ落ちていた。

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優しい氷河の話。
動物と氷河ってのもいいじゃん。