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新盤エリュシオンの2話です。



※篝祇亜須磨
森での魔物討伐を終えて、一息つく。
木の枝を集めて、火を焚く。
剣を置いて、持ってきた水を飲む。
「いつもこれだと……疲れるよなぁ」
魔物討伐本部で得た情報によると、魔物が沸くのには周期があるようだ。
人狩りと呼ばれる魔物が上から落ちてくる時期がある。
人狩りで落ちてくる魔物の数は、本部の北にある広い荒野をほぼ埋め尽くすほどだ。
そして街が破壊され、多くの人が魔物に殺されてしまう。
人狩りの周期は半年ぐらい。
前は一年周期だったのだと思うと、間隔が短くなっているのがわかる。
夜月や柊さんはそれを危険視しており、警戒を続けている。

俺は放置された魔物を倒すという任務を受けて、この森へ来た。
唯一広がるこの森は、薄暗く長くいられるような場所じゃない。
普通の人が来るような場所ではないこの森は、迷いの森として有名だ。
噂では人を嫌う魔族が、魔術で迷わせているという噂がある。
俺は魔族に会ったことがないので、事実だとは言えない。
森にいるだけでいろいろ悩ませられるので、憂欝になってしまう。
「お、亜須磨何してんだ?」
「路也か」
後ろから灯野路也に声をかけられた。
「ボクもいますよっ!」
「あさぎちゃんもか」
路也にくっついてるのは、灯野あさぎちゃん。
路也の妹で、お金に煩い子だ。
「で、何してたんだ?」
「ここに沸いた魔物討伐。路也は?」
「俺はー……調べもの。」
路也は、俺の隣に座る。
そして、俺の袋からパンを勝手に奪い食べる。
「あ、お前!」
「いいだろ、たくさん持ってるお前が悪い」
機嫌よくパンを食べる路也。
半分に分けて、あさぎちゃんに渡している。
「あさぎちゃん。ちゃんとあげるから」
「ありがとうございますー」
路也から貰ったパンを食べながら、俺のパンも受け取る。
それだけで路也が睨んでくる。
「おい亜須磨。あさぎに触れるな」
「なんでだよ」
「これであさぎがお前に惚れたらどうすんだ」
本気で思っているのか真顔で話す路也。
路也はあさぎちゃんが好きすぎるんだ。
過剰な愛情とでも言うのだろうか。
二言目にはあさぎちゃんなのだから、やりにくい。
それを除けば気さくな奴なんだけど。
「ありえないから、大丈夫だって」
俺が軽く笑い返しても、路也は聞いてくれない。
「いいや、万が一だとかそういう可能性もあるだろ!」
「ボクは、お金さえくれればいいけどな……」
ヒートアップしていく路也。
鬱陶しそうにあさぎちゃんが呟く。
「なら、一番お金をあげている俺の勝ちだな!」
何を言ってるんだ、こいつは。
それでも嬉しそうにガッツポーズをする路也を何も言わず微笑ましく見る。
「亜須磨さん、このあたりにも魔物が現れたんですか?」
あさぎちゃんが、俺から奪い取った水を飲みながら、質問をする。
「……そろそろ人狩りの時期かもしれないな。」
「人狩りって……まだ半年経ってないぜ?」
路也が呆れたように笑う。
確かに前の人狩りから、まだ4か月しか経っていない。
路也が言うように、時期としてはまだ早いはずだ。
「でも、お兄ちゃん。周期はだんだん短くなってるんだよ。」
「また短くなり始めたってのかよ。」
「きっとそうだよ。ねぇ、亜須磨さん?」
なんで俺に振るんだろうか。
路也に睨まれながらも、答える。
「可能性はあるだろ?」
「分かったよ。柊さんにでも確認してみるよ。」
路也が立ち上がり、ひらひらと手を振りながら、木々へと入っていった。
あさぎちゃんも慌てて追いかける。
俺もそろそろ本部に戻らないとな。
そう思い、火を消してから立ち上がる。
「あれ……?」
ふと辺りを見ると、木々が不自然に倒れている場所があった。
路也も井是さんたちも気づかなかったのだろうか。
調べようと思い、その先へと進んでみる。

奥へと進むと、地面が抉れた跡があった。
それほど大きくないので、小さな爆発だったのだろう。
その中央に人が倒れていた。
白すぎる肌に、長い金髪の少年。
近づき彼を起こしてみる。
「う、うう……」
「大丈夫か?」
「はい……ありがとうございました」
俺が軽く支えるだけで、少年は一人で立ち上がる。
辺りを見回し、最後に空を見上げる。
木々が多くて、青空を拝めるとは思えないが……。
「あ、あの……ここはどこですか?」
怯えながら彼が俺に聞く。
「森だよ。ここは迷いの森とも呼ばれているから、あまり人が来るような場所じゃないんだけど……」
「森……ですか。」
また少年が空を見上げる。
その表情は寂しそうであったが、すぐに真剣な表情で俺を見つめる。
「あ、あの……!俺をエリュシオンに連れていってください!」
「ええ!?」
エリュシオンってあの空に浮かぶ楽園にか!?
少年の目は真剣だ。本気なのだろう。
「ちょっと待ってくれ。本当にあの楽園に行きたいのか?」
「はい!僕はどうしてもエリュシオンに行きたいんです!」
「……困ったな」
つい頭を抱えてしまう。
少年の真っ直ぐな目に耐え切れず、つい目をそらしてしまう。
「どうして……エリュシオンに行きたいんだ?」
「僕は楽園の御子エルディアスと言います。」
「楽園の御子?まさか、お前エリュシオンの人間だって言うのか?」
エルディアスが頷く。
再び真剣な表情で俺を見る。
「エリュシオンを取り戻すためにもう一度エリュシオンに行かないといけないんです!」
エルディアスの剣幕に圧倒されてしまう。
それに俺の思考もまとまらない。
まさか本当にエリュシオンの人間がいるなんて。
あの魔物の巣窟に人が住んでいたなんて、俺たちには信じられるものではない。
しかし、彼が嘘をついているとは思えない。
まずは、エルディアスを落ち着かせないと。
「エリュシオンへの行き方がわかるのか?」
エルディアスは、黙って空を見上げる。
そして寂しそうに俯く。
「……すみません。焦りすぎですよね。」
「落ち着いたならいいんだ。」
とりあえず、白河さんに話を聞いてもらう方がいいかもしれない。
俺一人では対処できない。
「俺たちもエリュシオンの調査をしているんだ。よかったら話を聞かせてくれないかな?」
「……エリュシオンの調査、ですか?」
エルディアスが首をかしげる。
俺は、少し胸を張って話を始めた。
「俺たちは魔物討伐本部。エリュシオンから落ちてくる魔物を倒しつつ、その元凶であるエリュシオンについて調べているんだ。」
「下ではそんな組織があるんですね。僕でよければ、話をしますよ。魔物を倒せる実力なら協力もしてもらいたいですから。」
「よし、決まりだな。じゃ、付いてきてくれ。途中に魔物がいれば俺が守るから」
エルディアスに手を差し伸べる。
エルディアスは、喜んで手をつないでくれる。
「はい!よろしくお願いします!あの、あなたの名前は?」
「そうだ、名乗り忘れてた!俺は篝祇亜須磨。亜須磨でいいよ。」
「亜須磨……。」
エルディアスは、俺の名を呟くように呼ぶ。
「あ、エルディアスってのは、長くて呼びにくいな……。エルでいいかな?」
「はい、エルでいいですよ!」
初めて出会ってから、エルディアスがようやく笑ってくれた。
少年らしい純粋な笑顔だ。
「下の人って、こうやって仲良くなるんだ……」
感動したかのように目を輝かせている。
こういうところはエリュシオンの人間であろうと変わらないんだな。
「さぁ、行こうか」
「はい!」

魔物が現れることなく、無事に森を抜けることが出来た。
森を抜けたら本部はすぐだ。
その前に大きな街が見える。
人狩りで魔物に壊されて以来、最低限の機能だけを取り戻した寂しい街。
「あれはなんですか?」
「街だよ。この前の人狩りにやられたから、賑わってないけどね」
「人狩り……」
エルは人狩りという言葉に反応して、暗い表情をみせる。
「なにか知っているのか?」
「いえ……それは、その本部の偉い人もいるときに話しますね。」
と、無理に笑って見せるエル。
俺はごめん、と謝った。
俺が白河さんに頼ろうと言い出したのに、気になって聞いてしまった。
エルもやはり言いにくい話なのだろう。
それきり本部につくまで口をつぐんでしまった。

やはり全てはエリュシオンにつながっている。
人狩りも魔物もエリュシオンも。
エルの話を聞ければ、大きく変われるような気がした。
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