放課後の人も少なくなった教室。
いつも教卓の周りに集まる私たちはまた自然と集まっていた。
「存斗、今度ノート貸してくれ！」
成績下位の藤浦桐斗が、成績上位の藤崎存斗に手を合わせて頼み込む。
存斗は、ため息をついて冷たい眼差しを桐斗に向けた。
「たまには赤点でも食らって反省した方がいいんじゃないか？」
「ただでさえ教師に目付けられてんのに、赤点なんか食らったらバカにされるだろー！そこをギリギリ躱して教師を悔しがらせるのがいいんだよ！」
さらに呆れたようなため息を吐く存斗。
「お前、馬鹿だろ」
「うっせぇなー！いいから頼むよ、存斗！俺にはお前しか頼れる奴がいない！」
頼む、一生のお願い！を繰り返す桐斗に存斗はノートを差し出す。
「ああもう黙れ、煩いんだよ、お前は」
差し出されたノートに目を輝かせて受け取る桐斗は満面の笑みで笑う。
「ありがとよ、存斗ー！よーし、勉強終わったら落書きしてやろ」
ここで存斗が桐斗からノートを奪う。
「あーっ！」
「…返してもらうぞ」
怒りを含んだ冷たい眼差し。
それも気にせず桐斗は存斗からノートを奪い返す。
「冗談に決まってんだろー。もう存斗は真面目なんだからなー」

…この教卓の向かいの二人のやりとりを見ているだけで私は幸せだわ！
桐斗がその悪戯な笑みで多くの女を騙そうとも、存斗がその冷たさで多くの女を騙そうとも、桐斗と存斗はそんな騙された女の物にはならないわ。
だって互いは互いしか見てないんだから！
これこそ相思相愛よ！

「おい鳴海、また妄想か」
存斗が、私を変なものを見るような目で見る。
「いいじゃない。貴方達お似合いなんだから」
「だから、それの意味が分からん」
存斗と私の間に高原天音が割って入る。
「まぁいいじゃん、アリト！なるみんの楽しみに貢献してるんだからさっ！」
「そうだそうだ、貢献してるんだからー」
「棒読みで乗るな、独尊番長」
いつの間にか私の後ろに独尊番長がいた。
独尊番長は桐斗のノートをぱらぱらと読んでいた。
「あっれ！？独尊番長、それ俺のノートッ！なんで？」
「鞄がお留守だったから」
桐斗はすぐ後ろに置いていた鞄を見る。
「うわーっ！いつの間に開けられてるー！」
桐斗が悲鳴を上げてる間に私達は、独尊番長の周りに集まり桐斗のノートを見た。
「呆れる程真っ白だな…」
「真っ白じゃないよ、ほらー」
天音が白紙の中の一行を見つけて指差す。
「…天音。この程度では書いたと見なされないからな。」
「まー確かにあたしはもっと書いてるけどねー」
教卓を叩いて桐斗が天音を指差して騒ぐ。
「天音！お前は俺の味方だろ！？」
「あたしは、ちゃんと書くものは書いてるもーん。」
天音はくるりとそっぽを向く。
「俺だってもっとちゃんと書きたかったっつーの！けど、気付いたらチャイムなってんだよなー…」
「それ寝てただけじゃん」
ノートをぱたりと閉じ、変わらぬ表情のまま独尊番長が突っ込みを入れる。
それに桐斗がオーバーによろめいて胸を押さえる。
「ぐはっ！独尊番長ストレートだぜ！」
「桐斗面白いなー」

独尊番長は攻めか受けか分かんないのよね。
ミステリアスなＳ攻めかと思ったら、身長が低いの気にしてたり可愛いところもあるのよね…。

「だったら何で天音は平均を越えられないんだろうな」
「さ、さぁねー？なんでだろーなー？」
存斗に目を合わせずに答える天音。
「天音は、何にも覚えてないからよ。」
私が答えると、天音は桐斗の隣に向かう。
「うわー、なるにゃんひどーい！キリトー！頭いい人が苛めるー！」
「やっぱり成績上位には下位の気持ちが分かんねぇんだー！」
二人で泣き崩れる真似をする。
「…だって成績悪いと後々めんどうだし」
この独尊番長の一言で、二人はぴたりと黙った。