癒しがほしかった。
普通で普通な話。

・ノーマルデートコース 映画編
※茅野三奈美
氷河さんが暇だと言うので、出掛けることにしました。
復興して随分賑やかになった街を二人で歩く。
それだけでもまるでデートみたいで、緊張してしまう。
氷河さんも気にしてるみたいで、どこかぎこちない。
「氷河さん」
「ん？」
「あれ、見ませんか？」
私が指差したのは映画館。
セリティナ様がデートの基本は映画よ、映画！と言いながら、私にチケットをくれた。
それは純愛ものの映画で、天使の趣味らしいものだ。
そのチケットを氷河さんに見せる。
「うわ、それ最近流行ってる恋愛もの……だよな？」
「氷河さんにアクション映画を見せると、暴れだしそうなので」
「……んなわけないだろ」
「行きませんか？」
「茅野は好きそうだもんな。じゃ、行こうぜ」
氷河さんが私のチケットを取り、席をとってきてくれました。
こういうことはやってくれるんですね……。
「茅野、ほら」
「あ、ありがとう、ございます……」
何気なく差し出された席の書いてある券。
受けとるだけなのに、余計に嬉しくなってしまう。
「い、行こうぜ、あっちだから」
「え、ええ……ごめんなさい」
照れてる氷河さんに案内され、席につく。
その映画が上映される部屋には、どの席もカップルだらけだった。
「居づらい……な」
「私たちはあんな恋人じゃありませんから……ね」
周りの上演の前にイチャつくカップルを見ながら、気まずそうに目を伏せた。
「教会って恋愛禁止じゃないのか？」
「違いますよ」
「そっか。なんか不純だとか言ってんのかと思った」
「むしろ恋愛助長してますよ。セリティナ様もミシア様も愛を伝える天使ですから」
「そうか、ガブリエルだもんな……。ってことは、これ選んだのあいつらだな？」
「ええ」
「だから、こんな純愛ものかよ……」
氷河さんが頭を抱えます。
氷河さんって意外とこういうの苦手なのかしら。
と、話してるうちにスクリーンが映し出された。
内容はベタで甘い純愛ものだ。
二人が出会って結ばれるまでの紆余曲折を描いたラブストーリーだ。
私は好きなものだから、感情移入しすぎて
最後には涙が流れてしまっていた。
キャストスタッフの紹介も終わり、部屋が再び明るくなる。
ふと隣を見てみれば、顔を真っ赤にして踞る氷河さんがいた。
「……どっかでカフェ、行こうぜ……。」
「……苦手なのね」
逃げるように出ていこうとする彼に手を引かれて映画館を出た。
それから、すぐに見つけたカフェでコーヒーと紅茶を注文した。
氷河さんはまだ顔が真っ赤で最初に出された水を飲み干して、ようやく一声感想をいった。
「甘過ぎだろ……さすがに……」
「私は楽しかったけれど」
「茅野は最後泣いてただろ。」
「……見ていたの？」
「見てたけど」
恥ずかしい。見られてたなんて。
私まで顔を真っ赤にして、突っ伏してしまった。
「あんな純愛、この世にあるのかねぇ」
「氷河さんらしい曲がった考え方だわ」
ここで注文していた飲み物が届いた。
氷河さんはさっそくコーヒーを口をつける。
「悪かったな、俺は途中から不良だし」
「あるわよ、愛は素晴らしいものだもの」
「よく恥ずかしげもなく言えるな……」
「氷河さんだって、吸血鬼と毎夜過ごしているくせに恥ずかしがってられるのね」
「あんな純愛じゃないからだよ……」
また氷河さんが目を伏せる。
「相当堪えているようね」
「思い出すだけで、恥ずかしいだろ……」
珍しい一面だわ。
いつもははっきりした性格なのに。
「茅野はさ、ああいうの好きなんだろ？」
「ええ」
「……あんな純愛、してみたいって思うのか？」
「出来たら、したいわね」
「…………」
コーヒーを飲み干して、氷河さんが一息つく。
「茅野、まだ時間あるか？」
「ええ、あるけど」
「ちょっと町見て回ろうぜ。なんかいいのあったら選んでやるから」
「え、ええ？」
「……いいから、な？」
「ありがと……」
「ここの代金も払っとくよ。」
「いいの？」
「ああ、俺あんまり金の使い道ねーからさ」
「ありがとう、氷河さん」
「茅野のためなら、ってな」
そういって笑ってくれる彼に私は惚れていたんだ。

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甘いものが書きたかった！
ノーマルが書きたかった！