つけがまわる話。

・リミットオーバー
※天城芳示
今日は珍しく俺と氷河と恭二と丙の四人とも暇な日だった。
休暇をもらったと思って、のんびり休ませてもらおうと思い、ラウンジに集まる。
気分転換ってのも大事だろうからな。
ラウンジには、恭二だけがまだ来ていなかった。
「氷河、この前も魔術師に捕まってたんだよね？大丈夫？」
丙が心配そうに聞く。
丙はいつまでたっても氷河の心配ばっかだ。
こいつだって少しは強くなってんのに。
「大丈夫だって、少し休めばどーってことねぇよ」
氷河は笑って答える。
丙も安心したのか微笑む。
「氷河、これあげるよ」
一番最初に来ていた丙がいつの間に買っていた缶コーヒーを氷河に渡す。
二人の手が触れた瞬間、びくついて缶コーヒーを落としてしまった。
「静電気……？」
丙が不安な表情をするが、氷河はさして気にしてないようだ。
「季節だもんな。わり、丙」
改めて缶コーヒーを拾う氷河。
今度は大丈夫そうだ。
「ごっめーん！」
一際うるさい声で恭二がやって来る。
「ほんとおせぇよ、恭二！」
「だって、朝辛くってさー！」
俺が怒ると、恭二はへらりと笑う。
「よし、いくか」
「ちょい待ち」
集まったとこで、街にでも出掛けようと立ち上がった時、莱桃さんに呼び止められた。
魔導書を持って、怒っている表情をしている。
「今の氷河をつれ回すのはあかんよ。何も治ってないんやから」
「なにも、治ってない……？」
俺が聞き返すと、莱桃さんは頷く。
「そ、治癒術が万能やと思ったら大間違いやで。魔力がない状態でやったって、集中できひん状態でやったって、治るわけないやん。」
莱桃さんが魔導書を開いてから、氷河の肩をとん、と叩いた。
それだけだ。たった、それだけのはずなのに。
「ぐっ！？っ、ぅ……あぁああああッ！」
氷河は苦しそうに呻いて、膝をつき踞ってしまった。
「「「氷河！？」」」
当然そんなことになりゃ、俺達が動揺する。
俺と恭二が武器を抜いて、説明させる前に莱桃さんは、説明した。
「今やったのは、治癒術のごまかしをなくす魔術。古傷をあけたとかやなくて打ち消しただけや。」
「それだけで、氷河がこんなに、苦しむんですか……？」
丙が氷河を支えながら、聞く。
静かにキレてやがるな、あれは。
「なーんも治ってないんだから、当然やろ。治癒術が万能なわけないんやから。むしろ使い方によっちゃ悪い術やな」
「どゆことよ？」
恭二が落ち着いたのか、冷静に聞き返す。
「氷河が今回使ってたのは、傷をなおす治癒術じゃなくて、一時的に止めるだけの応急処置の治癒術や。痛みを消して、誤魔化して、戦えるようにする。無茶をするだけの魔術や。」
「じゃあ、こいつはずっと無理してたのかよ……」
氷河をみやりながら、呟く。
息荒く、腹をおさえている。
「何があったか知らんけど、体力の限界を越えてるのに立っとるなんてどうかしとるわ。誤魔化すにもほどがあるやろ。」
莱桃さんは、氷河に向けて言った。
怒りと呆れが混じった感情で。
だが、すぐに普段の軽いトーンに戻る。
「せや、誰でもええんやけど、服脱がしてみ？」
「えっ、いいの？」
「……そんな色っぽい意味やないで」
恭二が恐る恐る氷河の服を脱がす。
すると、身体にみみず腫の痕が刻まれていた。
ひとつだけでなく無数に。
「なんだよ、これ……」
こいつは何をされたんだ。
魔術師にたいして、怒りがこみあがる。
「……見るな、よ。こんな、の……」
氷河が身体を隠そうと、自分を抱く。
莱桃さんが、苛立った様子で魔導書を捲る。
「まーだ起きてられんのか。ほんと無茶ばっかして生きてるやつやなぁ、キミ」
莱桃さんが、氷河の肩に触れる。
「しばらく休んどきや」
手を離すと、氷河が静かに倒れた。
気絶したようだ。
「一週間は絶対安静やな。キミら、運んどいてー」
莱桃さんは魔導書を閉じ、ひらひらと手を降って、どこかに行ってしまった。
あの方向は指令室だろう。
「氷河！と、とりあえずベッドに運ぶ！」
動揺したまま恭二が気絶した氷河を抱えて、すぐに走っていった。
「くそ、なんなんだよ、あいつは……」
舌打ちをする。
気絶した氷河は、とても綺麗だなんて思いたくなかった。

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ウィップスレイブ、エレクトロスパークのまとめ。

氷河が痛ましい話。