忍者ブログ
一次創作ファンタジー小説中心サイト。 このサイトにある全ての小説の無断転載は禁止しています。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

コラボ補足編。

零雨様の『最もシリーズ』と『本部シリーズ』がコラボ。
零雨様に書いて頂いた噂の補足編。

生物編。

・殺人者と生物学者
※瀬戸氷河
その時、俺は学園の中庭にいた。ベンチに座り、花壇の花に囲まれながら図書室で借りた本を読む。この世界に少しでも早く順応するための、歴史書なんかだ。
「瀬戸君」
そよそよと心地良く風の吹く空間に現れたのは、生物部で出会った雨顧問だった。
「……雨顧問さん」
「勉強熱心なのね」
手にプラスチック製の如雨露を持って中庭に入ってきた彼女は俺に近付き、俺が読んでいた本を覗き込む。
「ええ、まあ。……雨顧問さんは、どうして此処に?」
彼女が赤空葉菊からどこまで聞いているのか分からないので、曖昧に頷いて話題を逸らした。すると彼女は笑って如雨露を顔の高さまで持ち上げる。
「お花に水やり」
俺のベンチの脇の水道まで雨顧問は近付き、蛇口を捻って如雨露に水を入れる。
「私園芸委員会の顧問もやってるの。普段は委員の子がやってるんだけど、この日だけはチェックも兼ねて私もやるのよ」
キュッ、と蛇口を捻る音。俺はそうなんですか、と相槌を打った。
改めて花壇を見てみた。色とりどりの花が美しく存在していた。それに水をやる雨顧問。如雨露から出る水が風に煽られ、爽やかな空気を作る。
「……綺麗ですね」
「ええ、委員の子は皆熱心だから」
心地好い沈黙。俺は本を読む手を止め、彼女の様子をしばらく眺めていた。
「瀬戸君は」
水やりが終わったのか、彼女は水やりをやめて俺を見ていた。雨顧問は悲しそうに微笑んでいる。
「どうして生物の授業が苦手なの?」
ヒュッと息を飲む。俺は思わず目を伏せた。
「俺には……理解できないですよ。好んで解剖したりするなんて」
「素直なのね」
「すいません……」
俺の言葉にも優しく返す雨顧問に俺は申し訳無さから謝罪の言葉を口にする。雨顧問に申し訳無いと思っているのは事実ではあるが、かといって生物を好きだと嘘をつくのも俺は嫌だった。
「いいのよ。やっぱり生徒の中にもそういうの苦手な子はいるし」
彼女が俺の方に近付いてくる気配を感じた。顔を上げると、雨顧問が目の前で微笑んでいる。
「でもね」
俺の隣に腰掛ける雨顧問。
「誰かがやらなきゃ、謎は永遠に謎のままなのよ」
「謎のまま……置いておくのは駄目なんでしょうか」
コトン、と地面に如雨露の置く音がした。
「『最も強いものが生き残るのではない。最も賢いものが残るのでもない。唯一、生き残るのは変化するものである。』」
「……え?」
「進化論を言ったダーウィンの格言よ。現状維持というのは緩やかな衰退を示しているの」
「と、言うと……?」
「生物に限らず、学問というのは生き残る為の研究なのよ。応急手当を知っていれば、怪我人が出たとき治せるわよね?それと同じなの」
まあ、スケールがDNAとか小さいから分からないかもしれないけどね。そう言って微笑んだ雨顧問は花を見ていた。
「それに、無闇矢鱈と殺している訳じゃないのよ?この学園にも、実験動物の慰霊碑だってあるし、実験終了後に黙祷もする」
必要なのは、敬意を払って行うこと。そんなことを思った。何か目的を達するために、行う。……俺とは思想が違う。
「やっぱり、俺は……」
俺はただの人殺し。彼らとは違う。
パン!と雨顧問が手を叩き、俺の沈みかけた意識が浮上する。
「植物を!見ましょう!」
「はい?」
立ち上がった彼女は、如雨露を片付けるのも忘れ、俺の手を引っ張って中庭を飛び出した。


雨顧問がどこへ向かったかと思えば、学園の山。そうして、見つけた植物を片っ端から解説している。
「これはね、カタバミ。かわいい黄色い花でしょう?実はこの葉っぱ、食べられるの。食べるとちょっと酸っぱくて美味しいんだよ!」
「はあ」
ちぎって手渡されたので、おそるおそる口に運んでみる。美味しいとは言えないが、食べられなくはない。
「あ、これ!センニンソウ!キンポウゲ科の植物だよ。キンポウゲ科って知ってる?」
「知らないです」
「キンポウゲ科のキンポウゲって植物は高山に生えてる植物で、九月頃に登山に行くと綺麗な花が一面に咲いてるの。その仲間よ」
実のようなものをちぎって手渡されたので、かじってみた。雨顧問が目を丸くして叫ぶ。
「キンポウゲ科は有毒よ!」
ギョッとして俺はすぐに吐き出した。確かに、舌がピリピリして苦かった。
「ごめんなさい、先に言うべきだったね……」
「いえ……」
魔術師の色々な物に比べれば大したことはない。が、少し驚いた。
「センニンソウは仙人のおひげに似てるからセンニンソウって名前なのよ。……あ、ムカゴだ。ムカゴはお芋の仲間だから食べられるわよ、お店でも出るくらいだし」
素揚げが美味しいかな、と彼女は言ったが俺は手は出さなかった。
「……どう?」
「どう、って」
「生物という分野は、動物だけじゃないわ。植物を知ることも大事な勉強なのよ」
サバイバルにも役立つしね、と彼女はウインクする。確かに、こんなに植物を知っていたら、食べられる野草も分かるだろう。
「無理に勉強しろとは言わないけれど、こういうのを学んでみても面白いんじゃないかな」
「そうですね……」
俺が頷くと雨顧問はぱっと顔を輝かせて嬉しそうな顔をした。
「ふふ」
「次の授業が、解剖以外だったら良いですね」
「生物の授業で毎回解剖なんてしないわよ!動物って高いのよ!」
「そこですか……」
「そうよ、予算とにらめっこよ!」
「はは……」
帰りも、俺は彼女の植物講座を聞きながら帰った。山を散策するのは、結構楽しい。
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
プロフィール
HN:
天草八津芽
性別:
女性
自己紹介:
BLでファンタジー小説が多いです。
ひっそりひそひそ書いてます。
ツイッター
メインアカウント(妄想ばかり)


オリキャラ紹介bot
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ブログ内検索
P R

Copyright © [ 妄想の隠れ家 ] All rights reserved.
Special Template : 忍者ブログ de テンプレート
Special Thanks : 忍者ブログ
Commercial message : [PR]