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コラボ補足編。

零雨様の『最もシリーズ』と『本部シリーズ』がコラボ。
零雨様に書いて頂いた噂の補足編。

世界の中心の話、完結編。



「ああ……この体の自己紹介もしておこうか?」
ふわ、と『世界』は水色の髪をかきあげる。
「『この体』は池崎藤美。いけざきふじかがメスになった姿だよ」
「ッ!」
確定だ。目の前の世界は周囲の性別が替わる前の名前を知っており、覚えている。彼女は事件の真相を知っている。身構える俺に対して、世界は緩い笑顔を浮かべた。
「せとひょうが、知り合いにはほぼ全員会ったかな?」
「は……?」
「釣木学園での知り合いだよ。いせれいこ、いいはらゆうき、いろりようへい、くろつかあゆ、すずさしゅう、あいかわあんず、あかぞらようけい、くまざきわきょう、ゆうぜきあかね、だよ」
「あ、ああ……」
戸惑いながらも頷くと世界は満足げに鼻を鳴らす。
「ならば良い。このファンタジーについて教えてあげよう」
彼女はそう言いながら俺に背を向け何処かへ歩き出す。俺は慌てて着いていった。
「君は彼らに会って、このファンタジーについて何か分かったことはあるか?」
「……ないな。何も、無かった」
そう、俺はこの日皆と会って回っていて何も見付けられなかったのだ。恐ろしいほどに何も。あのファンタジーの中心人物とも言える赤空ですら、今回の事件に何も関係は無く、そして手掛かりすらも見付からなかった。だが、一番恐ろしいのは、見付からないというのに、違和感を感じなかった『俺』なのだ。
「そうか、だろうね」
くつくつと楽しそうに世界は笑った。
「彼のファンタジーは強いよ。世界で一番とも言える程にね」
強い、と言われて俺は思わず文房具などの武器をちゃんと持っているか確認してしまった。その様子を見て、世界が解説を加える。
「物理的に強いんじゃあないのさ。精神に影響を及ぼす。それも、『この世界のすべての人間』にだ」
「……なんだよ、それ」
せとひょうがはこの世界の人間ではないから少し例外はあったけれど、影響を受けているよ。そう言った彼女に俺は動揺を隠しきれなかった。全世界の人間を操るなんて――強すぎる。
「ついたよ」
世界はとある扉の前で立ち止まっていた。その部屋は俺が行ったことのない、扉の前を通ったことすらない場所であった。世界は軽くノックをする。
「藤美だよ、いるかい?」
「――ああ、うん。入って」
中から声が聞こえて、藤美のフリをした世界は扉を開けようとする――が、少し俺の方を見て苦笑した。
「これはいけざきふじかも納得していることだから、あまり彼を怒らないでやってくれ」
俺は訳が分からず首を傾げた。世界が池崎藤美本人としてこの世界で行動していることだろうか?答えはすぐに分かった。
扉を開ける。中は応接間のようになっており、向こう側のソファに青年が一人座っていた。
「やあ、池崎さん……と、誰?」
「すぐに紹介するよ」
世界は青年の隣に座ると、頬にキスをした。それから、腕を絡める。青年はちょっと困った顔で照れながらも抵抗しなかった。池崎も納得していること、とはこれか。まるで恋人同士だ。
「座って」
俺は手前側のソファに座って青年と向かい合う。青年は黒髪で中肉中背の、何処にでも居そうな容姿をしていた。没個性、地味でクラスで浮くタイプでも、派手でクラスで目立つタイプでもない、その中間。
「彼は瀬戸氷河。ある事情で君の能力の影響をあまり受けていない」
「ある事情?」
「異世界から来たのさ」
「それは凄い!」
異世界から来たということに純粋に喜ぶ相手。不思議だ、どうして彼はこんなにも『普通』なのか。
「紹介しよう」
世界が微笑む。
「この彼こそが、ファンタジーの中心人物の斉藤勇太だ」
「えーと、よろしく……」
名前も普通だ。って、そうじゃなくて。
「コイツが?本当に?」
「ハハ……」
斉藤が苦笑いをする。
「驚くのも無理はないよ、俺だって信じられない」
「だからこそ――なんだけどね」
いつのまにかテーブルの上にあった緑茶を世界は斉藤に手渡した。
「ありがと、池崎さん」
「世界の中心に尽くすのは当然の事さ」
斉藤は世界から俺に視線を移す。
「池崎さんが言うには、俺が世界の中心らしいよ。その名前の通り、俺の行動で世界が決まるらしい」
「世界の中心になる能力ってか……」
この空間を変化させて自分を世界の中心にしているのか。それならば、この変な釣木学園も、世界を従わせて(?)いるのも納得がいく。だが、俺の解釈を斉藤は首を振って否定する。
「違う」
「え?」
「違うんだ。自分で言うのも厨二病っぽくて恥ずかしいんだけど……能力ではなく、元々俺は世界の中心、らしいんだよ」
恥ずかしそうな斉藤に代わり、世界が喋り始める。
「旧世界空間では彼は全てにおいて平均だった。身長体重体型性格、成績までも。だが、違う。彼の行動が『平均になる』んだ。そして、この世界空間では色々と反転して彼は世界の頂点に立っている」
「個室では分からないだろうけど、外に出ると一瞬で人に囲まれちゃってさ……ちょっと困る」
「…………」
ズズ、と緑茶を啜る斉藤。彼らは何気無く言っているが、俺は絶句していた。この能力――いや、存在はあまりにも異端過ぎる。この釣木学園の世界は彼を中心に回っている。物事の基準は全て斉藤の行動で決まり、世界はそれに従う。あまりにも、桁違いの異端だ。
「世界を従わせるこのファンタジーの副産物がこの事件ってことさ」
なんてことだ。こんな大きな事件だというのに、それが副産物に過ぎないなんて。
「しかし、この世界に変化した理由が笑えるんだ。せとひょうが、聞きたいかい?」
「やめてよ!」
世界がニヤついた顔で言うと、斉藤が顔を真っ赤にして止める。が、世界はひらりとソファから逃げ出して話し始めた。俺の答えも聞かずに。
「この『私』、世界の入ったいけざきふじかに恋をしちゃったからだって!」
「やめてーー!!」
アワアワと顔を手で覆う斉藤と楽しそうに笑う世界。
「いけざきふじかに恋をしちゃった彼は性別に悩んで、結果こんな世界が出来上がってしまった。馬鹿だよねえ、『世界』に性別なんてないのに」
『世界』に恋をしてしまうなんて、本当に馬鹿だ。世界は俺にだけ聞こえるように、小さく呟いて微笑んだ。その顔は少し寂しそうな表情であったが、斉藤がこちらを見るとすぐにそれは引っ込んでしまった。
「し、知らなかったんだよ……!君は池崎さんの二重人格みたいな存在かと思って!」
「初めはそう説明したしね」
うんうんと頷く世界に俺はため息をついた。そんな理由で、この空間が出来てしまったのか……。
「まあ、今回はせとひょうがに紹介したから唆したという面が大きいかな」
「お、俺は君に会いたかったから……」
「分かっているよ」
照れながら言う斉藤にそれを微笑ましげに見る世界。初恋って感じがして癒されるな。しかし、この世界の口振りではどうも何度もこの空間に変化しているようだ。
「じゃ、どうやったらこれは元に戻るんだ?」
「俺が満足したら、かなぁ。俺もよく分かってないけど、数日したら戻ってるんだ」
「そうか」
なら、俺がどうこうする必要もなさそうだ。お茶には手をつけずに立ち上がる。
「もう帰るのかい?」
「ああ、俺は調査だけだしな」
「それじゃ、また明日」
ひらりと手を振ると、外に出た。


言われた通り、数日したら元に戻った。廊下でバッタリと斉藤に出会う。
「あ、どうも」
斉藤は軽く会釈をする。
「先輩だったんですね、言ってくれれば良かったのに」
「学年とか、どうでもいいだろ」
軽く世間話をして、別れる。
「瀬戸氷河」
振り返ると、真後ろに池崎が立っていた。気配に全く気が付かず、歯痒い気持ちになる。
「池崎か……」
「斉藤勇太のこと、どう思う?」
池崎は無表情で斉藤の後ろ姿を眺めていた。
「どう、って……世界の中心とは思えない程、普通の奴だと思ったよ」
「……そうか」
「そういう池崎は?」
「…………」
チラリ、と俺を見た池崎。
「言えない」
「言えない?」
「いつか世界と斉藤勇太と僕、という歪な関係に変化が生まれるだろう。その時、円滑に物事を進めるに僕は何も言うべきではない」
「…………」
『世界』は決まった容姿を持たない。その為に、斉藤と会うときはいつも池崎の姿らしい。斉藤は世界に恋をしているが、姿を持たない物とどう向き合うのか。また、その媒介の池崎はどう行動するのか。世界は介入しないでなすがままだし、斉藤は問題を後回しにしている。だから、池崎は斉藤が決断を下すまで、ただ媒介の道具として働くつもりなんだろう。
「そういうの……辛くないのか?」
前に世界と会った時にも気になったが、聞いてみる。池崎は道具として生きていて、辛くないのか。
「生まれたときからそうだから、よく分からない」
池崎は首を傾げて、何処かに言ってしまった。
「分からない……か」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
女体化祭編終わり。

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