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本当に書きたかったのは、こちら。



・教会の聖堂
※篝祇亜須磨
月の綺麗な夜。
音が聞こえたから、ふらりと教会に立ち寄る。
「またいたんですか」
「また来たのかよ。」
教会のグランドピアノを引いていたのは、瀬戸氷河さんだ。
一番前の長椅子には杖が立て掛けてある。
「魔術の練習ですか」
「な、なんで気付くんだよ……」
俺が聞くと、氷河さんは恥ずかしそうに顔を伏せた。
そして、呆れたように言った。
「散々、魔術なんて学びたくないっつったの俺なのにな」
「なら、どうして練習を?」
「決まってる。恭二を守れるからだよ」
氷河さんは、はっきりと答えた。
「魔術と治癒術……。魔術は今までの銃技よりも遥かに強い。恭二を守るためには、魔術に頼らざるを得ない。治癒術は誰かを治せるのなら、と思ってな」
「治癒術は、自分を治せないって訳じゃないんですよね。」
「自分を治すほうが楽だな。」
「ああ、だからか」
納得してしまった。
本人は、分からないようで首を傾げている。
「そんなんだから、傷付くんだ。どうせ治せるからいいや、みたいな自傷行為は迷惑ですよ」
「そんなんじゃねーよ。だいたい一連の事件は全て俺を狙ったものだろ。だったら、傷付くのは俺しかいない。」
「それが、間違ってんですよ。痛いじゃないですか。嫌でしょう。つか、氷河さんが傷付くのは俺が嫌です」
「亜須磨のくせに」
氷河さんが、くすりと笑う。
話を変えよう。
「氷河さん、また引いて下さいよ。」
「またかよ……。じゃ、これでいいか?」
氷河さんが、楽譜を俺に見せる。
見ても分からないが。
「それでお願いします」
「ったく、期待すんなよ……」
氷河さんが、ゆっくりとピアノを引く。
その綺麗な音色に、聞き惚れる。
曲が終わり、恥ずかしそうにこちらをちらりと見る。
「氷河さんの音色、好きだな」
「――そっか。」
氷河さんが、嬉しそうに笑う。
「この前、引いてから思ったんだけど、俺、母親以外に音聞かせたの亜須磨が初めてなんだよ。」
「そんなおいしい立場貰っていいんですか」
「いいんだよ。恭二達に言うつもり無いから。」
ピアノから離れ、教会の長椅子に座る。
俺の、隣にだ。
「聞いてもらって、好きだ、って言われるのって、こんな気持ちなんだな……。」
「どんな気持ち?」
「嬉しい、かな。俺は母親ほどピアノ引くの上手くないからな。」
「氷河さんの音は、透き通る優しい音なんですよ。硝子のような音……壊れやすい繊細な氷河さんみたいな」
氷河さんを見つめて言うと、氷河さんは顔を赤らめて目を逸らそうとするので、押さえて顔を固定してみた。
驚いて更に頬を真っ赤に染める氷河さんが、可愛い。
「な、にしてんだよ……あす、ま」
「い、いや……逸らされるのは悲しいな、と思いまして」
「ベタ褒め、されんのに、慣れてねぇだ、けだよ……っ。」
「いや、あの、そんな可愛い反応されるとこっちが困ります」
「なっ……困るんなら、は、なせよ!」
「あの、名前呼んで見てください。」
「はぁ?」
「さっきみたいに!」
「あす、ま……?」
「かーわいー……っ!」
思わず氷河さんに抱き付く。
氷河さんは、驚いて困惑している。
「氷河さん、ヒロインでいいよ、もう!」
「な、何の話!?おい、こら亜須磨!」
「ここは、教会ですよね。今だけ許してもらおうか、な……っ」
ピアノを聞いてから、かなり眠気が来ていたんだった。
俺は、氷河さんに抱きついたまま眠りについてしまった。
「しょうがねぇな……。亜須磨の癖に」
そう、囁かれた気がした。

翌朝、目を覚ますと俺は長椅子を占領して寝ていた。
身体には何故か毛布がかけられていた。
反対側の長椅子には、氷河さんが毛布をかけられて寝ていた。
そろりと近付き、顔を覗き見る。
眼鏡が端に置かれていた。
「絶対この人、育ちいいよ……」
控えめな寝息を立てる氷河さんは、綺麗だった。
天城さんとはオーラが違う、神聖なオーラ出てるよこの人。
「はぁ、やっと目が覚めたのね」
教会の修道女、茅野さんが溜め息を吐きながら扉から出てきた。
恐らく控え室か何かで寝ていたのだろう。
「見回りをしていたら、あなた方が寝てるんだもの。驚いたわ。」
氷河さんが、ぴくりと動く。
「……っ、あ、寝てたのか、俺。」
「ようやく起きたのね」
茅野さんが、氷河さんに声をかける。
「ん、んっ……茅野……?」
氷河さんは伸びをしてから、ぼんやりしたまま眼鏡を探す。
その前に毛布がふわりと落ちる。
「あ、毛布……?」
「教会のものです。返してもらいますよ!」
茅野さんが、バッと毛布を奪い取る。
氷河さんは、眼鏡を見つけてかけていた。
「なんか迷惑かけたみたいだな……」
「いえ、深夜のあの曲は貴方が引いたのでしょう?」
「そうだけど」
「それに免じて許しましょう。ほら、さっさと行きなさい。司祭にばれると面倒だから」
慌てて氷河さんの杖を拾う。
氷河さんも、いそいそと立ち上がり、杖を受け取る。
そして、堂々と正門から抜け出した。

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暴走のはて。

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