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零雨様より、藤野と小浜の話を頂きました!

騙し屋共謀、謀り。

※小浜黒葉
「小浜さん」
任務が終わって食堂でぼんやりしていると、昨日に続き今日も藤野が話し掛けてきた。今日の藤野は非番なのか私服だ。
「暇でしょう?今日も話しません?」
「うーん、ごめんね。今日は暇じゃないんだ」
嘘だ。ちょっと面倒だったので、適当な事を言って僕は彼を追い払おうとした。
「ふふ、嘘付かないで下さいよ」
「バレちゃったか」
彼はあっさりと僕の嘘を見破って微笑んだ。僕もあっさり暴露して微笑み返す。
こういう時、事前に相手が暇かどうかを調べておくのは当然だ。それを知らないフリしてわざわざ聞く。相手の情報を事前に収集し、それを本人に重ねて聞くことにより、隠し手札にもなるし公の情報にもなる。騙し合いは話し掛ける段階から始まっているのだ。
「飲み物、持ってきますよ。緑茶で良いですかね?」
「今日は紅茶って気分だから、アッサム入れてくれないかな」
また嘘である。僕は今日も緑茶という気分だった。が、藤野に同意するのは流れを彼に取られるような気がして、何となく面倒な指定までしてしまった。そもそも、今日は嘘を吐きたい気分なんだ。元々アッサムも好きだし、騙し合いの片手間に優雅に飲むには良いかもしれない。
「いいですよ。ミルクもいりますか?」
「ああ、お願い」
彼はまた楽しそうに紅茶の準備をし始めた。お茶を煎れるのが好きなんだろうか?


「さて」
紅茶を入れてくれた藤野が僕の目の前に座り、話を切り出す。
「お話したい、と言ってもこれと言って話題はないんですが……」
嘘だ。適当な雑談をしてからさりげなく途中で話を切り出し、相手に印象付けることなく自然に聞きだす為にこういう言い方をするんだろう。
「そういうさ、まどろっこしい事は止めない?」
「と、言うと?」
藤野はとぼけた。騙し屋同士なんだからこんな面倒なやり取りはすぐに見抜かれるから無駄である。それを見ないフリして乗ってやるか、今みたいに指摘するかは自由だが、今回は指摘してみる。昨日は乗ってやったんだから今日は面倒なことはしたくないと言ったって良い筈だ。何にせよ、全ての反応は貴重な情報である。無駄な事を聞いた、言った、なんて騙し屋には縁遠い言葉だ。
「……そうですね、昨日も付き合って貰いましたし腹を割って話しましょう」
彼は意見を翻し認めたが、底の読めない笑顔は張り付いたままだ。腹を割って話そう、なんて白々しいにも程がある。彼が紅茶を飲むのを確認してから、僕も慎重に一口飲む。
「上手だね」
「ありがとうございます」
僕はちょっと驚いた。紅茶にも美味しく入れる正しい煎れ方がある。信用ならない藤野であるが、昨日といい、お茶を美味しく煎れる事に関しては信用しても良いかもしれない。
「それで君は一体何を聞きたいのかな?」
「先日の事件についてです」
「この前、っていうと鹿屋の洗脳のこと?」
「えぇ。貴方の意見が聞きたくて」
僕は考える素振りをして黙った。何を悩んでいるのかといえば、僕の意見を素直に彼に言って良いものかということだ。
「鹿屋を洗脳するなんて魔術師もやるな、って思ってる」
「無難なことを言いますね」
ハハ、と藤野は笑った。正直やるな、どころで無く結構マズいと思っているのだが。鹿屋の手引きがあったとはいえ、本部内に気付かれずに侵入して出られるというのはかなりの実力である。強さも未知数。鹿屋の話では魔物化もまだしていないようだし。
「僕は洗脳に関しては大したことではないと思ってますよ」
「どういうことかな?」
「行き過ぎた思想は簡単に盲目へと転化します。僕のマリオネットの様にね」
風上が藤野の事を心酔しているように。鹿屋も末沢に執着していた。それが風上と違って表面に現れなかっただけで。それを増長させると同時に、どさくさ紛れに従わせたって事か。
「マインドコントロール、か」
「そうです。本部の人はきっと簡単に操られてくれると思いますよ」
「それはどうかなぁ」
僕も小さく声を上げて笑って見せたが、ハッタリだ。藤野の言う通り、執着だとかの異常性を突けば、本部の人間は操れてしまうだろう。普通の人よりそれは簡単な筈だ。
「おや、カップが空ですよ。おかわりいりますか?」
「うん、貰おうかな」
藤野はちゃんと茶漉しを使って丁寧にポットから紅茶を入れてくれた。……今度一緒に紅茶選びに行って貰おうかな。
「ありがとう」
話していて濃くなってしまったので、ミルクを程よく入れてかき混ぜた。口に運ぶ。美味しい。
「逆に考えれば君も転化しやすいと僕は思うね」
紅茶を美味しく煎れてくれた対価として、僕は少しだけ素直になることにした。元騙し屋としての、忠告。
「騙し合いに執着は邪魔でしかない。『探求心』も執着だ。弱点になるよ」
「ハハ、忠告ありがとうございます。そう言う貴方はどうなんですか?」
「僕は騙し屋を辞めたからいいのさ」
彼は僕の忠告を気にしてないようで、クツクツと笑いを堪えて口に手を当ていた。まあ……受け入れるかどうかは彼次第だから、気にしなくったって別に構わないんだけどね。
「じゃあ僕も先輩に忠告しようかな」
手で隠れた口元が指の隙間から少し見えた。僕は、嫌な予感がした。
「紅茶だけじゃなくて、ミルクも警戒した方が良いですよ」
藤野のカップには、ミルクが足されていなかった。グラ、と視界が歪む。
「な……っ、ふ、じの……!」
上手く呂律が回らなくなってきた。体が、動かない。
「いくら騙し屋を辞めたからって甘すぎやしません?」
そんな馬鹿にしたような声が、食堂に響いた。

――――――――――――――――――――――――――――――――
関連性がないように見えますが、洗脳の魔術師シリーズなんですよ、これ……!
人を騙して生きる連中は、ろくなのがいない。
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