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零雨様より、鹿屋と末沢の話を頂きました!

洗脳の魔術師編です。
この話は甘いです。うってかわって。

※末沢針弥
ゆっくりと、意識が浮上する。
瞼が重い。体が重くて動きづらい。声が出ない。
「あ、気が付いたね」
白い天井とボンヤリとした人影が見える。
「か、みやさん……?」
「うん、神谷だよ」
神谷さんは急いで事を進めようとはせず、僕の意識がはっきりするまで待ってくれた。僕は神谷さんの助けを借りて上半身を起こした。
「ここが何処だか分かる?」
「……病院、ですか?」
「正確には、本部の隣にある治療部屋だね。君は何日も眠っていたんだ……覚えてるかい?」
「…………」
「いや、覚えてないなら思い出さなくても良いよ」
覚えている。あの時の出来事を思い出してどっと冷や汗が吹き出る。夜中に鹿屋さんが部屋にいて、鹿屋さんは操られていて、手を刺されて、足を……!
「……っ!」
僕は掛かっていた布団を剥ぎ取り、足を露にした。切られた筈の足が――ある。
「氷河が治してくれたんだ」
「そう、ですか……お礼言っとかないと……」
色々な事に僕は安心して大きくため息をついた。小刀で貫かれた筈の手も開いて閉じて動かしてみる。包帯が巻かれているが、不思議と痛みはない。
「彼はまだ未熟だからね、完全に足が治ったわけじゃない。まだ絶対安静、だから」
僕は頷く。が、同時に疑問も湧き出てきた。
「鹿屋さんは?」
「鹿屋は……死んだ」
「…………え?」
頭の中が真っ白になった。鹿屋さんが、死んだ?
「正確には一度死んで……って、えぇ!?ちょっと!?」
何も考えられなくて、神谷さんの声も入ってこなくて、ポロポロと涙が零れていた。鹿屋さんが死んでしまった、二度と会えない。あれが最後。
「嘘!嘘だから!ちゃんと話聞いて!鹿屋は生きてる!生きてるからね!?」
「……生き、てる?鹿屋さんが?」
「そうそう!死んだの後に話が続くからね?最後はハッピーエンド!」
僕は口を開けて神谷さんの事を見ていた。目からは相変わらずだらーっと涙が流れ続けている。
「君たちを襲った人物にね?鹿屋は心臓を止められたんだ。でも、ちゃんと本部の人たちが心臓を動かして生き返らせたんだよ。今はしっかり生きてる」
「鹿屋さんは死んでない……?」
「死んでない死んでない!」
「また……会える?話せる?」
「会えるし話せるよ!」
だから泣かない!と神谷さんはハンカチを取り出して顔をゴシゴシ擦る。
「い、痛いです……」
神谷さんに悪いけど、ちょっと乱暴で痛いので顔を背けると、自分で拭きなさい、とお母さんみたいに言ってくれた。ハンカチを受け取ってぐじぐじと鼻水を啜る。
「……そんなに鹿屋に会いたいの?」
僕は黙って一度頷いた。
「あんなことされたのに?」
僕は固まって、でもしっかり頷いた。
「会って色々、ちゃんと話したいです。だって、洗脳されてたんですから」
「そっか、いいよ」
もっと反対されるかと思ったのに、神谷さんはあっさりと答えた。
「でもま、こっちも色々説明したいからちょっと待っててね」
彼は微笑んで僕の頭を撫でてくれた。


「君は洗脳の定義ってのを知っとるか?」
莱桃さんは僕の部屋に来て早々そんなことを言った。
「え、っと……操るってことですよね?」
「おーまかに言えばそうなるわ。じゃあ、洗脳とマインドコントロールの違いは?」
「分かんない、です」
「マインドコントロールは屁理屈でそう考えさせる、洗脳は無理矢理改竄する、っちゅー違いがあるんね」
「はい。それが、どうしましたか?」
「そう結論を急いでもええ事ないよ。時間はあるし、ゆっくり話そうや」
莱桃さんは僕のベッドの側にあるパイプ椅子に座る。
「マインドコントロールっちゅーのは、例えばガキに『これこれこういう理由だから盗みをしてもいい』と言って聞かせて、倫理観を低くさせる様に誘導すること。洗脳っちゅーのは拷問とかで肉体や精神を弱らせて『お前はこういう人間だ』つーて書き換えることや」
「じゃあ、やっぱり鹿屋さんは洗脳されてたんですね」
にこっと莱桃さんは笑った。
「それは全て人力でやった場合や。せやけど、この世界には魔術っつー便利なモンがあってな?」
自分の魔導書をペラペラと捲り、目を細くしてちょっと考え込むような動作をする莱桃さん。
「神崎君が俺の知らん固有の空間魔術を使うように、魔術は個人では把握しきれん程大量にあるんよ」
「……鹿屋さんは魔術で洗脳?マインドコントロール?されたってこと、ですか?」
僕は我慢できなくなってまた口を挟んだ。莱桃さんは頷いてくれた。
「彼は捕まった後、魔術影響下の部屋に入れられ、極度の飢餓状態にさせられた。空腹と魔術の影響でマトモな判断ができなくなった彼に魔術師への忠誠心を植え付け、同時に本部を反逆させるように仕向けた。っちゅーのが俺たちで話し合って出た結論」
「なるほど。それで、鹿屋さんはどうやったら治りますかっ?」
「まだ話は終わってへん。それはこの話の後な」
めっ、と口を塞がれた。黙っていろということだろう。
「せやけど、洗脳で自由意思が無いんなら君に執着していた理由が分からんのや。本部で狙うならリーダーの白河君とか強い留川君とかとぶつける方が得策なんに」
「…………」
「実は彼は洗脳ではなくマインドコントロールされとったんかも」
「……?」
「魔術師のつこうた魔術は本心を誘導しとうただけで、彼のあの行動は操られたのではなかったんやないんか」
「っ!そんな!あり得ませんっ!」
僕が強く否定すると、莱桃さんは笑顔を消して哀れむような表情になった。
「君は気がついとらんだろうけど、ここの人たちは異常や。でも、皆が皆知らんふりしとる」
「え……」
「それは、俺も彼も例外じゃあないで。あれが彼の押し隠していた本性だってことも充分考えられるんや」
頭がついていかない。アレが鹿屋さんの本心?僕を殺したいほど……あ、愛してる、って……。
「顔が青くなったり赤くなったり忙しい奴っちゃなー」
「いや、そ、それは」
パッと僕は隠すように頬に手を当てると、莱桃さんは可笑しそうに笑った。
「あくまで可能性。その判断は君がして、どうしたいかも君が決めてええよ」
僕は頷いた。
「じゃ、鹿屋君に会う?」


僕はまだ歩けないので、神谷さんに車椅子を押して貰いながら僕は鹿屋さんのいる所へ案内してもらった。
「ここ、拷問部屋じゃないですか!」
案内された場所は魔術師などから情報を聞き出す際に使う拷問部屋だった。
「まだ洗脳が解けてなくて、拘束しないと暴れちゃうんだよ」
その部屋から羽織さんと崎原さんが出てきた。二人とも妙に疲れた顔をしている。
「お疲れ様」
神谷さんが二人に声を掛ける。
「ああ……」
「この状態の鹿屋君とは今後戦いたくないね……」
「何かあったんですか?」
僕が聞くと、崎原さんは苦笑いして答えてくれた。
「朔走みたいに無茶な特攻してくるくせに、体力があるから中々倒れない。しかも復活が早い。鹿屋君ってこんな戦い方も出来るんだね」
「殺さないなんて無理難題だったぜ……」
二人の言葉にかなりの不安を感じながら、僕は部屋の中に入る。
「…………」
鹿屋さんは、両手両足、首にも拘束具が付けられ、しゃがみこんでいた。
「気を付けてね」
神谷さんは鹿屋さんが触れないギリギリのところまで車椅子を押すと、気を使って出ていってくれた。
「鹿屋、さん……」
「末沢」
乱れた黒髪の間からギラついた目が見える。
「今の俺は何をするか分かりません。近付かないで下さい」
僕は答えずにじっと見つめ返した。
「あの、ね……あの時の鹿屋さん、すごく怖かった」
じゃら、と彼を拘束する鎖の音がする。
「でも、さ。嬉しかったんです。変だよね、殺されそうなのに」
ズボンで隠れているが、切られた痕があるであろう太股を撫でた。痛みはない。あの時感じた感情は、恐怖と嫌悪と……ほんの少しの喜び。
「僕も、鹿屋さんのこと……好き、です」
鹿屋さんはフラフラと立ち上がった。よくみるといつもの服がボロボロだし、細かい傷が沢山あった。僕も車椅子を動かし、少しだけ前に進む。
「末沢……」
前髪が邪魔で鹿屋さんの表情は伺えない。ゆっくりと僕に手が伸び、首に掛かった。
「あぁ、俺も好きです。好きですよ。好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで、殺しちゃいそうです」
ゆっくりと首に絡む手に力が籠っていく。呻き声を上げはしたが、僕は抵抗しなかった。
「どうして抵抗しないんです?泣き叫べば良いじゃないですか。好きって言ってくださいよ」
「鹿、屋さん……好きで、す」
鹿屋さんの口角が上がり、はっきりと顔が見えた。この前と同じ、狂気に満ちた眼だ。
「死んじゃうのは嫌、ですけど、鹿屋さんになら、着いて……いけますから……特別、ですから」
「ハハ」
僕はぎゅっと目を閉じた。更に手に力が込められ……唐突に緩まった。僕は苦しさから解放されてゲホゲホと咳き込む。
「お、俺が……末沢を殺すわけ無いじゃないですか」
「……鹿屋さん?」
その声は随分苦しそうで、僕は目を開けた。鹿屋さんは全身を震わせながら、僕から離れていく。
「末沢は殺さずに適度に虐めるのが楽しいんですよ」
右手で左手を押さえて苦しそうに壁に寄り掛かる。
「ちょっと……離れてください。まだ体が完全に自由になった訳じゃあないんで」
僕は車椅子を動かし、神谷さんが押してくれた位置まで戻した。
「さっきの言葉、本当ですか?」
「……はい」
「そうですか。じゃあ俺が元通りになるまで待っててください」
「……分かりました」
「俺をしっかり驚かせてくれましたね。末沢のくせに生意気ですよ」
「……ふふ」
こうして鹿屋さんとの面会はあっさり、とは言わずとも比較的短い時間で終わった。


「鹿屋」
「あ、ああ……神谷さん、どうも」
「退院おめでとう」
「ありがとうございます」
「驚いたよ、一週間であの洗脳から抜けられるなんて」
「これも愛の力ってヤツですよ」
「あはは……」
「なんて冗談はさておき、何か用ですか?」
「あ、そうだ!末沢が居なくなったんだよ!まだ怪我も完全に治ってないのに!」
「……はあ!?」
「やっぱり遺跡の地図見せちゃったからかな……」
「何で脱走するって分かってるのにそんな物見せるんですか!馬鹿かアンタは!」
「ご、ごめんなさーい……」
「あーもう!行ってきます!」
「いってらっしゃーい」

――――――――――――――――――――――――――――――――
これで、第一弾終わりとなります。
最後は、結構本部の人たちが出てて愉快でシリアスな感じに。
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