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アンハッピーシリーズ第二弾。

実験の魔術師。



※瀬戸氷河
目を覚ますと、白い壁が見えた。
それ以外は小さなテーブルしかない空間。
「目を覚ましたか」
自動ドアが開く。
白衣の男が歩み寄る。
「寝てる間にいろいろ調べさせて貰ったが、君はかなり他の魔術師に遊ばれたようだね。身体に毒やらが残っていたよ。それでは、私の実験が出来ないではないか。」
まだ意識が定まらない。
何も答えない俺を見て、魔術師はくつくつ笑う。
「まだぼんやりしているのか?そんなに強い薬でもないのだがな。」
「頭、いてぇんだけど。」
ようやく出した言葉は、なんだか情けない物だった。
魔術師は真剣な表情で、額に触れる。
「私の薬の副作用だな。神血というから加減が分からなくて困ったが、人間と同じ量でよかったみたいだ。」
俺も自分の額に触れる。
確かにいつもより熱い。
「……熱い、な」
「済まないな。ベッドを用意しよう。」
「いいの、か?」
「私は神血を調べたいだけだ。別に苦しめる気も殺す気もない。」
「そんな魔術師、初めてだ。」
「魔術師が全て、神血を憎んでいるわけではない。」白衣の魔術師が、ドアの方へ振り返る。
ドアの方へ歩きながら魔術師は呟いた。
「……多くの魔術師に痛め付けられた傷が響いているのか。ふむ、興味深い。敵を知れるやもしれん。」
その時の魔術師の口角を吊り上げた笑みに、肩が震えた。
「言っておくが、私の実験体となったからには、外に出られると思うなよ。食事も薬もこちらが管理する。君は外に出してはならない物だ。害悪な空気に今の君は晒せないな。」
こちらを見ずに、魔術師は言うことだけ言って、去っていった。
逃げようにも今は、身体が思うように動かない。
「氷河ー、大丈夫ー?」
天井から声がした。
上を見上げると、苑宮が天井からぶら下がっていた。
「うわっ、大丈夫じゃなさそうだ」
すたっ、と天井から降りてきた苑宮。
忍者だったな、こいつ。
苑宮も俺の額に触れる。
「氷河、気付いてる?今、すっごい熱出してるよ。平熱から3度くらい離れてる。」
「ああ……やべぇのは、なんとなく分かる……。」
「なんとなくじゃなくて、マジやばい。なんで意識保てるわけ?」
俺の腕を軽くとった苑宮が、更に心配そうな表情になる。
「身体も熱いや……。氷河、本当に大丈夫?寝ていいんだよ。」
「いや、いい……。つか、こんなとこで寝てられるかよ……」
自動ドアの開く音。
知った声が聞こえた。
「なんで俺が魔術師の雑用してんだよ!」
「仕方ないじゃん、藤野の作戦なんだから!」
「作戦、っつってもな……!」
草薙と風上だ。
なんで二人がベッド運んでんだよ。
「氷河が死ぬよりマシだろ。これは僕が出せる最高の取り引きだ。フィアレスって魔術師は壊れてるから、本気で氷河を殺しに来てた。」
その後ろで藤野が二人に話をしていた。
苑宮が三人を手を振って呼ぶ。
なにもない白い部屋に、適当にベッドをおいた。
彼らがあまり動きたくなかったからか、ドアのある壁添いにおかれた。
ちなみに俺がいるのは、その反対。
「氷河、立てる?」
「な、んとか……」
一人で壁に手を付け立ち上がる。
それでもぐらりと倒れそうになったので、苑宮に支えられた。
「おい、どうなってんだよ?」
草薙が風上と藤野を睨む。
藤野が答えた。
「あの魔術師は医者みたいな学者でね。最初に氷河をみて、まだ毒が抜け切れていないのを見抜いたんだ。その毒を消すための前段階の薬を注射した、と聞いた。今の氷河は、きっと今まで魔術師に与えられた毒がまた出て来てるんだ。」
「副作用、って聞いたけど……」
俺が聞くと、藤野は違う、と返した。
「残された小さな毒をまた増幅する。そういう薬なんだ。」
草薙が機嫌悪く舌打ちする。
「これだから魔術師、って連中は……!」
「抑えてよ、草薙。これでもフィアレスに狙われるよりマシなんだから」
「くそっ!」
俺はなんとかベッドまで辿り着いて、三人に寝かされた。
「ごめん、氷河」
藤野が謝る。
「また身を売り渡すような真似して。でも、今回は氷河を守るためだから。」
珍しく真剣な藤野。
「三人にも話しておくよ、フィアレスって魔術師は――」
「フィアレス、か?」
藤野の声が遮られる。
先程の白衣の魔術師だ。
「……その名をここで聞くとはな。懐かしく忌まわしい名だ。」
「知ってる、のか?」
俺が起き上がって聞くと、魔術師は答えた。
「フィアレス・アリーゼは私の患者だ。」
「つーか、寝てろ馬鹿!」
草薙が俺を押し、思い切り倒れる。
後少しで頭打つとこだったぞ。
「ちょっ、おい草薙!」
「大人しくねてろ、病人は!」
「だったら、思い切り倒そうとすんな!頭打つとこだったろうが!」
「あぁ?」
草薙も芳示と似て、喧嘩っ早い。
草薙の方がまだ話は分かるが。
「二人とも、なんでそこで口論出来るかな……。つか、氷河は寝てろよな」
「風上まで……わーかったよ、なら、話は向こうでしてくれよ。うるさいの嫌だから。」
俺が不貞腐れた。
白衣の魔術師が、くすりと笑う。
「なら、紅茶を用意しよう。こちらだ。」
5人が部屋を出る。
「強がんのも、保たねぇかな……っ」
もう身体が動かない。
先程、無理に身体を起こしたが、かなり負担がかかった。
歩く時だって、苑宮がいなかったら倒れていた。
魔術師に痛め付けられた分はかなりの量だったようだ。

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最もやさしくて実験らしい話。

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