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零雨様より、氷河と芳示の話を頂きました!

バットエンドシリーズ最終話でございます。

※グロいのと、バットエンド注意!

※瀬戸氷河
「おはようー」
 檻の外で、魔術師が眠そうな顔をして微笑んでいる。
 あの後、芳示はそのまま魔術師に引き摺られて連れていかれてしまった。右目も無く、腹部の火傷も酷いし、治りかけの無数の傷は当然治っていない。吐瀉物にまみれた床も掃除なんてされる訳もなくそのままで、その中にある芳示の眼球の一部を見付けてしまう度に俺は吐き気を催した。
「げっそりしてるねぇ、大丈夫?」
 観察するように無神経に眺めてくる魔術師にもう口答えも抵抗もする気も起きず、ぼんやりと見つめ返す。
「あ、そうだ。昨日ご飯あげなかったからお腹空いたよね?」
 そう言った彼は俺の首輪と手錠に繋がっている鎖を掴んで檻の鍵を開けた。
「ごめんねぇ、あの後また実験しちゃったんだ。目の前で見せてあげればよかったよー」
 軽く鎖を引っ張って歩くのを促す魔術師に俺は着いていった。
 着いた先は豪華絢爛な装飾のされた部屋。艶やかなテーブルの上には出来立てと思われる食事が用意してあった。
「さ、座って食べてよー。実験体君の力作だぜ」
 彼に促され俺は椅子に座って食事を眺めた。サラダに、ライスに、コーンスープ。一番目をひくのは大きなハンバーグだろう。どれも普通に美味しそうな出来で、怪我をしている芳示が作ったとはとても思えない。後ろで俺の鎖が椅子に括り付けられる音がする。いつまでも手をつけないと不審に思われるので、俺はおそるおそる食べ始めた。
「神血君、美味しい?」
 一口食べ物を入れると、やはり空腹だったらしく手が止まらず一心不乱で食べてしまう。ここで魔術師にナイフを投げるとかすれば状況は多少は変わっていたのかもしれないが、俺にそんなことをする心の余裕は全くと言って良いほど無かった。
「……うふ」
 全てを平らげてしまった俺を見て、魔術師は嫌らしく笑う。
「元気になったみたいだねぇー。良かった」
「そうさせたのは、お前だろ」
 俺の反論に答えず、彼は手を二回叩く。すると、扉から病院で使われるストレッチャーの様な物を押した魔物が入ってきた。その上に横たわっているのは、芳示。
「芳示ッ!」
 立ち上がろうとする俺を魔術師が無言で抑える。芳示は死んだ様に眠っていた。右目のあった空洞から流れていた血は乾いて固まってはいたが、未だ傷口は痛々しい。
「あっ、この方向じゃ見えないなー。ちょっと向き変えてあげて」
 何を思ったのか、魔術師が魔物にそう声を掛けた。確かにここからでは右半身しか見えないが、目立つ傷はもう右目と腹部にしか残っていない筈だ。魔物がカラカラとストレッチャーを動かし、向きを変える。見えた物に俺は血の気が引いていく。
「そうだー、昨日の実験の映像取っといたんだよねぇ。見せてあげるー」
 見えた物、というか。芳示の左腕が無かった。肘から先が、ぷっつりと、無い。真っ赤に染まっている。
「はい、再生」
 魔術師が絶句する俺の目を覆う。と、視界に何かが映った。
『おはよう、実験体君』
 目の前で魔術師が微笑んでいる。
『ク、ソが……』
 その視界はしきりに瞬きを繰り返す。どうやら、芳示視点らしい。
『実験するけど良いよねー?』
『嫌だっつっても、止めないだろ……』
『もちろん!』
 芳示は痛みを押し殺した声でため息を吐く。どうして、芳示は抵抗しないんだろう。決まっている、俺が居るからだ。俺が居るから、俺が人質に取られているから、芳示は逃げられないのだ。俺は罪悪感で唇を噛む。
『じゃあこれに手ェ突っ込んでー』
「……これ、は」
 俺は思わず声を漏らす。魔術師が指示した物は、改造されたミンチ機だった。これに手を入れればどうなるかなんて、分かりきっている。
『……ああ』
『適当な所で手抜かないと危ないからねー』
 視界がぼんやり滲んできた。が、暗くなってまた視界が明るくなると既に元に戻っている。俺はそれが涙だと分かってしまった。当然だ、芳示だって人間で、痛いのは嫌なんだから。それをこんな俺を守る為に受け入れている。芳示はミンチ機に近付いていき……左手を見た。手が小さく震えている。その手はそのままミンチ機の中に吸い込まれる様にして消えていった。
『――――!!!』
 飛び散る赤い血液。銀の刃物。ピンクの肉片。芳示の悲鳴。魔術師の笑い声。
 芳示がミンチ機の中の腕を引っ張る。ブチブチッ!と嫌な音がして芳示の獣の様な悲鳴が大きくなるが、そのまま腕は抜けた。左肘から先は無惨に千切れた状態で。
『おつかれー』
 魔術師が拍手しながら芳示の視界に近付いてくる。魔術師の手が視界に近付いてきて、視界が真っ暗になった。
『この肉はちゃんとハンバーグにして美味しく食べてあげるよー、神血君がね!』
「ッ!!」
「うふ、分かったでしょ?」
 さっき食べたハンバーグは。芳示の力作とは。俺が食べた物は。吐き気が込み上げてくる。
「ああー、せっかく実験体君が身を投じて作ってくれたんだから吐いちゃダメだよー」
 魔術師は眉を潜めて口を押さえる。俺は涙目で何とか飲み込む。
「ほ、うじ……ほうじ……ッ!」
 俺は、芳示がこんな目にあっているのに何をやっているんだ。言われるがまま呑気に食事して、その食事は芳示の肉で、美味しいとすら思ってしまうなんて。どうかしてる。
 唐突に。魔術師が俺の頬にナイフを突きつける。
「んー……綺麗な血だねぇ」
 痺れる様な痛みが頬に走る。魔術師が眺めるナイフには俺の透き通る程に紅い血液が付着していた。
「……どこが、綺麗なんだよ。こんな、こんな俺の血なんて……」
 こんな俺の血液が綺麗だとか言われるなんて、本当にどうかしている。なんで俺だけ、違うんだ。俺が特別じゃ無かったら、芳示がこんな目には合わなかった。そもそもこんな魔術師と関わる事すら無かっただろう。
 ガシャン!とストレッチャーの方から音がして、俺と魔術師はそちらに目を向ける。ストレッチャーが倒れ、芳示が床に倒れながらも魔術師を睨み付けていた。
「テメェ……何してやがる……ッ!」
「芳示……ッ!」
「氷河に何かしたら、殺す……ッ!」
 目で殺せそうな程の殺気を放つ芳示。自分が満身創痍な状態なのに、俺の心配しかしていない彼に腹が立った。
「なんで、なんでだよ!? なんで俺の心配なんか……ッ!」
「見てられねーからに決まってんだろ」
 片方しか無い目でぎこちなく笑う芳示はまるで普段と変わっていなかった。今度は俺の視界がぼやける番だ。泣く気なんか全く無いのに、何故か涙がボロボロ零れてくる。
「ほうじぃ……もういいよ、もう良いから……」
「そーだよー、もう良いんじゃない?」
 雰囲気をぶち壊して魔術師は会話に割り込んで来た。
「もう実験体君の命は長くないぜ」
「どういうことだ……!?」
「これ、なーんだ?」
 魔術師が手を開く。掌には眼球が一つ。
「は……?」
 芳示の方をゆっくりと見る。彼も驚いた顔をして、口を開けていた。ツツ、と左頬にも血の涙が流れ、左目も真っ暗だ。
「これで実験体君は神血君が安全か分かんないよねぇ?」
 笑顔を嫌らしく歪ませると、俺の血のついたナイフを眼球に入れる。
「ッ、ぐ……あ……ッ!」
 途端に芳示が既に無い左目の部分を押さえて呻き始めた。魔術師はつまらなそうにナイフをすぐに抜いたが、芳示の息は荒いままであった。ぼとっ、と無造作に芳示の眼球を床に落とす。
「ぷちっ」
 そんな声と共に、魔術師は片足を上げ――眼球の上に降り下ろした。
「――ッ!」
 足を退けると、眼球が無惨に潰れている。あまりにも呆気なく。そんな眼球には目もくれず、魔術師は無邪気に俺にナイフを見せた。
「ほらー、やっぱり神血君の方が血の色綺麗」
 確かに、ナイフの先の方は根元についた俺の血とは色が違う様に見えた。だが、俺にはそんなことはどうでも良かった。
「芳示……!」
 どうでも良いのを察したんだろう、苛立たしげに魔術師は芳示に近付く。そのまま彼の首を掴み、ナイフを喉に滑らせた。パックリと開いた傷口から血が溢れ出す。驚いた顔でパクパクと口を動かす芳示。だが、悲鳴はおろか、呻き声すら出てこずヒューヒューと風が通るような音しか聞こえない。
「このまま、声も出せずに彼は死んでいくよ。神血君はそれを黙って見ている事しか出来ないんだ。ハハ!」
 みるみる血溜まりが出来ていく。近付こうとするが、椅子に括り付けられた鎖のせいで近付けない。
「ほう、じ」
 ゆっくり俺の方に手を伸ばした芳示はパタリと動かなくなる。
「アハハ! 死んじゃった!」
「芳示……なあ、返事しろよ! 芳示! 芳示!」
 芳示は動かない。答えない。
「う……あ、あ……」
 俺の心が、音を立てて壊れていくのが分かった。
「いやだ……やだ、やだ……」
 うわ言のように呟く自分の声も、何故か段々と遠退いていく。
「こんなの……認めねぇ……」


「おはよう、神血君」
「…………」
「またその人形持ってんのー? 好きだねぇ」
「…………」
「あぁごめん、人形じゃなくて実験体君だったね。芳示君だ」
「…………」
「芳示君喋んないけど寂しくないのー?」
「…………」
「ずっと一緒だから寂しくないって訳?」
「…………」
「ふーん、幸せそうでいいねー」

―――――――――――――――――――――――――――――――――
バットエンドシリーズ完結しました!
芳示がさんざん肉を削られた後死ぬ限り、かなりえげつないバットエンドですよー。
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