たまには休んでほしいんだ。

・夏祭り
※大浦丙
今日は街で夏祭りをしているらしい。
あの大きな街での祭りだから、人混みが多くて疲れちゃうかもしれない。
けど、俺は氷河を誘いたかったんだ。
最近の氷河は何だか思い詰めてるみたいだったから。
「氷河」
ノックしてから氷河の部屋に入る。
氷河は魔術書を読んでいたみたいで、ぱたりと本を閉じてから俺に用件を聞いた。
「丙、どうしたんだ？」
「今、街でお祭りやってるみたいなんだ。一緒にいかない？」
「祭り……」
「たまにはいいでしょ。恭二達は忙しそうだから、二人で。」
「……いいぜ、たまには息抜きも必要だよな」
氷河が立ち上がって、ハンドガンを手に取る。
「あ、それ置いて」
「なんで」
「殺しにいくわけじゃないでしょ」
「自衛の為だよ」
「なら殴ればいいでしょ。とにかくそれ置いて」
氷河が不満そうに銃を置く。
「それから、浴衣着てきてよ。せっかくなんだし」
「可愛い格好ならする気ねぇぞ」
「いやいや、女物じゃなくていいから。俺は氷河をお姫様だとは思ってないよ」
「じゃ、なんだと思ってんだよ？」
「……親友、かな」
俺の気持ちに嘘をついた。
けど、氷河はその言葉を聞いただけで嬉しそうに笑ってくれる。
その為なら、俺の気持ちは隠したままでいい。
「分かった、着替えるから待っててくれよ」
「俺も着替えてくるから、先に行ってて」
「おう」
すぐに自分の部屋に戻って着替える。
後、お金もたくさん用意しないと。
先にいかせたのは、あえて氷河を待たせてみることにしたからだ。
遅れるといっても3分程度のつもりだ。
用意をして街へ向かってみる。
街の入り口で氷河は腕を組んで待っててくれていた。
浴衣を着た氷河は、なんていうか美人だった。
肌が白いのがよくみえる。
「丙、ちょっと遅かったな」
「ごめん、待たせちゃった」
「いいよ、なんもなかったし」
氷河が微笑む。
何もなかったってのが、嬉しいんだろう。
俺は氷河より一歩先を歩き始める。
「じゃ、行こうか氷河」
「ああ」
手は繋がない。
そんなことしなくたってずっと見てればはぐれない。
屋台をきょろきょろ見ながら、氷河が言う。
「うまいもん食おうぜ、屋台の焼きそばとか」
「いいよ。氷河の好きなもの一緒に食べるから」
「丙はいっつも合わせてくれるよな。たまには丙の好きなようにしてもいいんだぜ？」
「……氷河の好きなように、が俺の好きなように、だから」
「気、使ってるのか？」
「いや、氷河って振り回されてる事が多いから、心配なんだよね。氷河のしたいことが本当にできてるのか不安でさ」
「俺のしたいこと……ね」
「今なら氷河の食べたいもの。」
氷河が3つ先の屋台を指す。
「じゃ、まずはあそこの焼きそばから」
「いいよ。」
少し並んで焼きそばを二つ買う。
屋台が並んでいるところから離れて、二人で黙々と焼きそばを食べた。
なんで黙っちゃったんだろ。
「うまいよな、屋台のってさ」
「雰囲気もあるからじゃない？」
「祭りって雰囲気か。本部もそうだよな」
「あそこはただ賑やかなだけだって。うるさくて全然寝させてもらえないんだから」
「はは、そうだな。」
氷河は本部と言う組織を気に入っている。
恭二を受け入れて、神血も受け入れてくれた場所が。
氷河が笑ってくれるようになったのは、あの人たちのお陰だ。
「氷河、次は何食べる？」
「ん、そうだな……たこ焼きでもいいし、じゃがバターでもいいし……歩きながら探そうぜ」
「分かった」
今度は氷河の後ろを歩くことにした。

－－－－－－－－－－－－－－－－－－－
寝るから続きは明日。

丙といるときの氷河は表情穏やか。