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ワンダーアビスワールドの一話です。

「命綱のある綱渡りをしたいわ」
屋上で空を見ながら話す少女、否染夢呟。
彼女の言う言葉は毎回意味不明だ。
「それって普通なんじゃ?」
僕が聞き返すと、彼女がゆっくりと首を振る。
「ああ、違う。毎日命綱のある綱渡りをするような生活がしたいなって」
「ようするに、スリルのある生活をしたいと」
それでも、命綱があるなら安全じゃないか。
彼女はくすりと僕を見て笑った。
「そう。私ってば言葉足らずだから。助かるわ」
意味が分かったって意味不明だ。

また別の日。
屋上で彼女がうんざりとした様子で呟く。
「あーもう。嫌だわ。幻想ホラー屋敷でひと休みしたい」
「え…?」
「いや、違うわね。あの世の花を見たいわ」
おもいっきり意味変わるよ、それ。
「それ、死にたいってこと?」
恐る恐る聞くと、彼女は怒った。
「違うわよ。死ぬわけないでしょ。まだ何もしてないってのに…!」
いつも、スレスレの事を言ってた気がする。
それも気付かずに彼女は続ける。
「あの世の花のように美しい景色が見たいなって意味。」
「あの世の景色と比べたら、どの景色も勝てないよ」
「…真に美しい景色は全て向こう。悲しいわね。」
彼女の言うことはめちゃくちゃなのに、惹かれてしまう。



ああ、これが。



「人間誰しもアブノーマルへの憧れがあると思うの。誰だって、平穏ばかりを望んでないわ。でも、争いは嫌ね。やっぱり命綱のある綱渡り。身の安全が保証された危険な世界。楽しく歪んだ世界。そんな世界があったら、どれほど素敵なことなのか。」



アブノーマルへの憧れなのか。



「人間の思うことって矛盾ばかりだわ。安全が保証された危険な世界なんて、そんな矛盾した世界ないわよね。けれどどちらか一つなんて選べやしない。ううん、選ぶことすら出来ない。世は全て運命の計算通り。運命を変えようとするなんて、その流れも運命のうち。そう、私のこの考えも運命。誰かが見ている夢なんじゃないかとも思ったわ。夢や妄想は自分の思い通りだものね。」



いや、違う。
この感情は



「全員我儘よね。いや、人間皆そう。自分の思い通りになることしか考えてないわ。皆、思い思いの理想が欲しいのよ。うまくいかないけどね。幸せとか不幸なんて在りはしないのよ。幸せ続きな人はちょっとの不幸に溺れ、不幸続きな人はちょっとの幸せじゃ癒されない。これって不公平じゃない?いや、人間の思考なんてマイナス寄りなのでしょうね。それに短絡的。たった数日で不幸を記憶から消し去ることが出来るのだから。ふふ、でも完全には消せないわよね。何かのトリガーで呼び起こされる。それを必死で消そうとする人。すればするほど鮮明になる記憶。人は記憶で出来ているとはよく言ったものね。」



アブノーマルに恋する彼女に



惚れていたのかもしれない。



(あーあ、命綱のある綱渡り、したいなぁ)(確かに……したいね)
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