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ワンダーアビスワールドの3話です。

「紫玲さん。もう授業終わってますよ」
講義室の椅子にぼんやり座っていた紫玲飽須賀さんの肩を叩く。
「ああ…そう。悪いわね。」
紫玲さんはそれだけ小さく喋ると、教科書を持って講義室から出ていった。

このループが二週間。

ある時、紫玲さんに聞いてみた。
「何で、ぼんやりしてるんですか」
紫玲さんはくすりと笑って答える。
「…いろいろ考えているからよ」
あれが、最初で最後の紫玲さんの笑顔だった。

僕が一回聞いてから、ループはなくなったが、紫玲さんは恐ろしくなった。

ある時、紫玲さんから話しかけられた時があった。

「ねぇ、唖奏君。自分ってとても下らない存在だと思わない?」
「そうですねぇ…思います」
「そう。いっそ消えても誰も気付かないんじゃないかとは?」
「それはないですね」
「あら。あなたが消えても3ヶ月後には忘れ去られるわよ。」
「でも、消えてからすぐは気付くでしょう」
「はずれ。案外気付かれない。たまに誰かがいつの間にかいなくなっていること、あるでしょう?」
「ああ…はい」
「それは、見えてないから。見られてないから。見ていればその人が遠くに行こうとしても気付く。気付かれないのは、その人にとってあなたがその程度ってこと。…その程度って言うのは、それほど良い仲じゃないってことかしら」
「何が言いたいんですか」
「私達もこの講義室の人たちからすればその程度ってこと。」
気付けば講義室に人はいなかった。

この人とは話が合いそうだと思った。

彼女に似ている。


「人は繋がってないと生きていけない。一人で何でも出来るということはない。だから。私は余計に人類が嫌い。」
「あなたもその嫌いな人類では?」
「そう。だから私は消えたいの。」



この世から。
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