先に浮かんだのは、悲しそうな目をした見習い治癒術師だった。

元はハードスクラップショー6でしたが、めでたく？本編入り。

※瀬戸氷河
無理矢理治癒術を学ばされ、治癒術をやっと覚えた翌日から駆り出された。

研究室で慣れない治癒術を使っていると、馬鹿が二人来た。
「「怪我してもいいと聞いて」」
「それは、無茶してもいいって意味じゃねぇから」
才臥と恭二が同時に傷だらけの腕を見せる。
「そう言われても、やっちまったもんは仕方ないぜー」
「そうだよなー、やっちまったもんなー」
「先に忠告しときゃよかった……」
二人の傷を治すために、治癒術をかける。
この馬鹿どもは安易に物を考えすぎだろ……。
「ほら、もういいだろ」
素っ気なく言うが、それとは関係なしに恭二は目を輝かせる。
「うわー……すげぇじゃん、氷河！」
「な、なんだよ！？」
恭二に腕を捕まれる。
「なんかすげぇよ、えーっと……教会とかにいる人間みたい！」
「褒めてんのか、それ」
「あ、でも、分かるわそれ。」
才臥にも分かるのに、俺にはさっぱり分かんねぇよ。

次に戦闘狂の二人がやってきた。
「「怪我してもいいと聞いて」」
「それは、さらに暴れてもいいという意味ではありませんが？」
宮代さんと羽織さんが、冷やかしに来たのだろうか。
傷は見えないが……。
「だよなー。氷河もそんなんでこき使われちゃたまんねぇか。」
「でも、今日は頼らないとさ。ほらほら、氷河、頼むよ！」
と、二人が上着を脱ぐと、見えたのは貫かれたかのような穴だった。
「う……」
「どした？」
宮代さんが、俺を心配するように顔をのぞく。
「いや、思ったよりえぐいな……と思いまして」
「ああ、悪いな。ドジっちまってさ」
「どうミスしたらこんな大穴あくんですか……」
普通、痛過ぎてここまでこれないだろ……？
この二人の精神力にも呆れながら、治癒術をかける。
「う……っ」
魔力を使いすぎたのか、少しよろけてしまった。
倒れそうな所を宮代さんに支えてもらう。
「あ――さっき、才臥が恭二がいたから、負担かかっちまったか。」
「いや……主にあなた方のせいなんですけど……」
「「いや、それはない」」
何故か羽織さんも否定する。
責任擦り付けてんのか、あいつらに。

そうじゃなくて、そんなギャグみたいな話じゃなくて。
疲れ切った途切れ途切れの言葉で語り始める。
「覚えたばかり、だから……ってもあるんですけど、やっぱり、辛い、んですよ」
宮代さんの表情が固くなる。
「俺は……昔の――あの時の恭二と、芳示と、丙の、傷しか、見たこと、なかったんですよ……？それが、いきなり、本部全員の傷を見なきゃ、いけなくなって、そして、時にあの時の傷よりも深くて……」
この先の言葉は出てこなかった。
けど、宮代さんは理解してくれたみたいで、黙って頷いてくれた。
訴えるように、願うように。
「だから、あんまり無茶しないで下さい……。大きな傷は、俺の心も抉りますし、魔力もかなり消耗するんで……ね」
「悪かったよ、氷河」
宮代さんが、休ませてやってくれと誰かを呼んでくれていた。
けど、俺はすぐに眠りについてしまった。

「大丈夫、氷河？」
「丙……？」
目が覚めたら、俺はベッドで寝かされていた。
そして、丙がいた。
心配そうに悲しげに俺を見る。
「最近、無理しすぎだよ。」
「そりゃ白河さんとかが無理矢理――」
「乗ったのは、氷河だろ」
言葉に詰まる。
そんなことを言われては。
「恭二と芳示の被害を最小限にしようと身体張って庇ってたのは、あの時の傷が見たくないからだよね？だったら、なんでもっと嫌なものを見ることなんか引き受けたの」
「丙――」
「俺は、氷河にも無理してほしくないよ」
丙が真っ直ぐ俺を見つめる。
「ごめん、俺は恭二を守らなきゃ」
丙が呆れたようにため息を吐く。
「氷河は本当に馬鹿だ」
「悪かったな！」
「……本当は銃持って特攻したいんだろ」
「――したいな、うん」
「氷河って本当は芳示と全く同じことしたがるんだよね」
「芳示ほど馬鹿じゃねぇよ、俺は」
「いーや、どっちもどっち。」
「そっか」

－－－－－－－－－－－
まだ治癒術師シリーズは、続きそうだ。