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零雨様より、洗脳の魔術師続編の話を頂きました。

洗脳の魔術師の真意とは。


※小浜黒葉
ゆっくりと目を開く。
「目ェ覚めたな」
誰かが、僕の顔を覗き込んでいる。何処かで見た顔だが、思い出せない。
「……誰、だ……?」
掠れた声で尋ねると、男がニッと笑う。
「オレェ?そうだな……キャッピーって呼んでくれヨ」
「キャッピー……あは、面白い、ね」
偽名だとバレバレな馬鹿げた名前だ。でも、そういうセンスは嫌いじゃない。はっきりしない頭で僕は笑顔を垂れ流す。それを見たキャッピーも楽しそうに笑って、僕をベッドから起こしてくれた。
「オマエ、覚えてる?」
「何を?」
「寝る前ンこと」
「んー……」
考える。寝る前どころか、ここ数日の記憶が靄が掛かったようにおぼろげで曖昧である。
「任務だってさァ」
思い出せないのを察したんだろう、彼は軽く説明してくれた。
「アンタの任務はァ、オレの研究の手伝いと監視。オレ魔術師なんだぜ」
「……何で、僕寝てたの」
「藤野がよォ、オマエに変な薬飲ませやがったんだ」
そう言われてみると、僕と藤野が一緒にお茶を飲んでいる景色がぼんやりとながら浮かび上がってきた。嘘を言っている訳ではではなさそうだ。
「今日は任務はいーから寝てろヨ」
キャッピーが優しく僕を倒して布団を掛けてくれたので、それに甘えて寝ることにした。


※藤野司
「なんだァ?あのクソっぷりは?」
部屋から出てきた途端、魔術師の彼はそう言い放った。
「知りませんよ。貴方がそうしたんでしょう」
「違ェよ。オレは数日の記憶を薄くさせて、危機感をかるーく低くしただけだっつの。それだけであんなにアホみてェな頭になっちまうなんて誰が考えるよ?」
彼はため息をついてそのまま歩き出したので、僕もそれに着いていく。
「完全に失敗だわ。あーもう、アレなら前の鹿屋っつーヤツの方が観察し甲斐があったのにヨ」
「彼はどうするんです?」
「んー……廃棄」
少し考えた後に簡単に結論を下された。
「と、言いてェ所だが保留だな」
利用価値がまだあるかも、と付け加える様に言いはしたが、数日経っても小浜が役に立たなければ彼は本当に廃棄してしまうだろう。
「……人を洗脳して、どうしたいんですか?」
俺の単純な好奇心。魔物化する魔術師は皆往々にして極めたい物がある。彼はまだ魔物化してはいないものの、人を拐って洗脳したり実験したりと、かなり派手な行いをしている。本部に目をつけられるのも当然である。
「人間観察、かなァ」
彼は立ち止まり、俺の方を見た。その顔は思った以上に真面目で、普通の人間のようだった。
「もしオマエが夢とか異世界で自由に生きられる、ってなったらどうする?そっちで死んでもこっちの自分には何の影響もないとしてサ」
「……もっと大きな仕掛けで人を騙しますかね」
例えば、戦争を起こさせたり、泥沼のような殺し合いをさせたりだとか。この世界でやったら自分の身も世界も危うくなるような、そういう事を俺ならする。そこまで考えて、俺はハッとした。
「まさか貴方は、お前は……異世界にいるのか?」
キャッピーと名乗る彼は無言で笑顔を作った。
「この体も生きてるっつーの。オレにとってここは夢だから好きに生きてるんだぜ」
つまりは……そういうことだ。彼の本体は異世界にいるから、自分にとってこの世界は無関係だから、こんなに無防備な真似が出来るのだ。
「ケッコーこの世界も愛着あるケドな、やっぱ生まれた世界が一番だわ。オマエらの一番の世界がココであるように」
「一番、というか……この世界以外俺達は知りませんがね。エリュシオンも此処の世界の括りでしょうし」
「じゃーオレに壊されねェ様に精々頑張れヨ」
ケラケラと笑う洗脳の魔術師は俺を廊下に残して研究室に入ってしまった。


※小浜黒葉
「俺の魔術分野はサ、心理学に通じるんだよ」
斜め横のふかふかのソファに腰掛けているキャッピーは寛いだ姿勢でそう言った。前のローテーブルにはハーブティーとモンブラン。研究所にしてはやけにまったりとした部屋である。
「ふーん、洗脳の魔術師みたいだ」
「そうそう!オレの研究で何か分かる事があるんじゃね、って黒葉が派遣されたのヨー」
僕は納得してハーブティーを一口飲んだ。口の中がスッキリして美味しい。
「数日前から来てたんだけどォ、たまには黒葉とゆっくり話してェと思ってー」
「そんなに仲良かったの?」
「『興味深い』だってヨ」
キャッピーはモンブランをパクついている。一見粗野な行動に見えるが、節々で行儀の良さが見える所に僕は好感を持った。
彼は今までの研究を分かりやすく解説してくれた。おそらく初めて会った時もこのやり取りはあっただろうに、嫌そうな顔一つしなかった。しかも、自分が喋るだけでなく、時には僕に意見を求め、雑談も挟み、僕も会話に飽きること無く、むしろもっと話したいとすら思った。
「キャッピーは面白いね」
「ン?」
「いや、話していて全然飽きないよ」
「騙し屋の黒葉に言われるなんて光栄だなァ」
「『元』騙し屋だけどね」
反射的に答えて、僕は昔は騙し屋だったなーなんて懐かしく思った。今はそんなことも全然しないし。
「……え?」
「どーした?」
「……いや、何でもない」
自分で考えた事に何か……違和感があった。なんだろう、大事な事のような。その違和感は直ぐに消えてしまったのだが。
「こんな風に話す親友とかいるだろ?」
考える僕の気分を変えようとしてくれたんだろう、キャッピーは話題を変えてくれた。
「そうだね……洋斗って人がいるよ」
「ヘェ?どんな人?」
「うーんと……真っ直ぐな人。反応が面白くてからかい甲斐があるよ」
「アハハ!面白ェ!」
彼は足をバタバタさせて笑った。その姿に僕も自然と笑みを作っていた。
「この前なんかもねー、一緒にカフェに行ったんだけど、落ち着かなそうにソワソワしてたんだよ。でね、僕達の席はカップル席だって聞いたときの洋斗の反応!すっごく笑っちゃったよ!」
「ハハ、マジでー?」
「口ポカーンって開けちゃってさ、固まってんの!石にでもなったかと思ったよ」
「そりゃーウケるな!」
一頻り笑った所で僕達はお茶を飲む。カップに残ったハーブティーは冷めてしまったが、キャッピーが新しく注いでくれた。
「本部って面白ェ人多そうだなー。もっと話してくれヨ」
「いいよ。誰がいいかなー?」
そうして、僕とキャッピーは夕飯も忘れて楽しく話し込んだ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――
次の被害者は小浜黒葉。
魔術師に名前がついた珍しい例でもあります。
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