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完結記念に全部うpしちゃいます。
存在倫理の迷宮入り編。

零雨様の『最もシリーズ』と『本部シリーズ』がコラボ。
そして、零雨様に書いていただいた噂の本編でございます。

キャスト
榎本恭二(えのもときょうじ)
子供心の吸血鬼。
瀬戸氷河(せとひょうが)
凍てつく光の魔弾。
天城芳示(あまぎほうじ)
特攻鬼軍曹ガンナー。
大浦丙(おおうらひのえ)
微睡みのトラップ。
赤空核(あかぞらさね)
反面常識人。
多々角円(ほぼまるまどか)
ノンストップ重力。
一一哉(にのまえかずや)
計算の策師。
多々角環(ほぼまるたまき)
筒抜けの仲間想い。


※瀬戸氷河
「ボクは魔術師だ」
天井の穴を閉じ、自身の体の前にフラフープを立てる東西南北。
「魔術師というのは神血を怨み。欲しがる物らしい。先生がそう言ってた」
東西南北が輪の中に手を伸ばす。
「だからボクも神血ってのが欲しくなったんだよ」
その手は輪を通る事無く消え、腕の断面図が見えた。が、彼は痛がる素振りさえ見せていない。
「ボクは神血のキミが。欲しい」
唐突に足を掴まれる感触がして下を向く。
「な、えッ?」
消えた東西南北の手が、床に空いた空間の穴を通じて俺の足を掴んでいた。いや、それだけじゃない。目の前に居る筈の東西南北の顔が、体が、空間から見えていた。
「そういう展開の方が。面白いだろ」
俺の体が空間に引きずり込まれ、重力の不思議な変化を感じた。下に引きずり込まれた筈なのに、横から出てきて。重力に従って床に落ちる。俺は受け身も取れずに背中を打ってしまった。
「いってー……」
「つか。まえ。た」
無表情に口角だけを上げた東西南北は俺の倒れた体に馬乗りになる。
「何、で……神隠しなんか」
「面白くなりそう。って思った。先に言うけど。魔術師になったのも面白そうだから」
彼はベタベタと無遠慮に俺の顔を触る。
「俺に……触るなッ!」
ピタ、と東西南北の指が俺の瞼の上で止まる。
「その気になればキミの目を何処かに移動させるのも。簡単なんだけど」
「それ……脅しか?」
「そのつもり」
「ビビってるくせに」
「ボクがいつビビってんだよ」
「核の腕を消した時」
「核君は友達だったからさ。友達を傷付けるのは心が痛む」
東西南北はそう言いながら自身の唇を摘まんだ。
「友達を傷付けてまで……神隠しなんかする必要あるのかよ?」
「キミ達に始末される魔術師ってのは。いつだってキミ達には理解出来ない行動原理で動いてる。ボクもそうだと思うよ」
「んなの、聞いてみなきゃ分かんねーだろ!」
こてりと首を傾げた東西南北は不思議そうに呟く。
「敵の事を知ろうとするなんて。変なヤツだな」
フフ、と。東西南北は声を出して笑った。その表情は本心であるように俺には見えた。
「この変な学校の変な出来事に。ボクもこの神隠しを起こす事で。一花添えたかったんだ」
「氷河ッ!」
銃声が聞こえ天井を芳示が走って来るのが見えた。
「また邪魔者。かあ」
東西南北は顔を上げ、面白くなさそうに呟いた。
「あー。そろそろ放課後も終わっちゃうな」
多分独り言なのだろう、小声で呟きながら彼は立ち上がって俺から退いた。
「もういいや。まあまあ面白かった」
パァン!と、聞き慣れた銃声が聞こえ、東西南北が倒れるのが見えた。


※多々角円
「ホウジ……今の、麻酔弾だろ?」
ホウジはヒョウガに馬乗りになっていたヤツがヒョウガから離れると同時に迷わず撃った。その立ち姿と制服に僕は見覚えがあった。
「麻酔弾な訳あるかよ。実弾だ」
僕はホウジの背中に居ながらも目眩を感じた。僕の見間違いでなければ、あれは隣のクラスの友達の東西南北紡で、ホウジの撃った弾の当たった場所は――ツムグの額だ。
「ツムグッ!」
僕はホウジの背中から降りて倒れているツムグに駆け寄る。床に出来ている血溜まり、まばたきしない瞳孔の開いた目、ピクリとも動かない体。
「う、あ……うあああああああああッ!!」
ツムグが、死んでいる。揺らしても叩いても何の反応もない。
「つ、ツムグ!ツムグッ!」
「何慌ててんだよ」
追い付いたホウジが僕の背後から声を掛ける。
「何慌ててんだよ……だって?」
振り返るとホウジは顔色も変えずに僕達を見下ろしていた。死んでいるツムグなんていないかのように、いつもと変わらず僕に声を掛けるのと同じ調子で。その様子に怒りが沸き上がって来るのが分かった。
「なんで……なんでッ!人を殺してそんな平然としていられるんだよッ!?」
「なんで?それってこっちの台詞だよ。コイツって犯人なんだろ?なのになんで殺しちゃ駄目だったの?」
僕達に追い付いたキョウジも本当に疑問気に逆に質問をしてきた。隣にいるカズヤ先輩は何も言いはしなかったが、顔色が悪い。
僕は……一瞬で分かってしまった。僕達と彼らとでは、倫理観が違う。魔物を倒す――殺せる力を持っているが故に、任務の為なら非情になれる。それは相手が人でも、例外ではない。殺せるのだ。
「コイツは敵である魔術師なんだぜ?殺しとかなきゃまずいだろ」
「お前ッ!」
僕はホウジの胸ぐらを掴むが、簡単に振り払われてしまう。力の差は歴然だ。彼らには敵と見なした者を殺せる『覚悟』も『力』もある。僕は彼らを止める事は出来ないのだと感じてしまった。
「紡君が魔術師であるのは確かでした。でも……同時にこの学園の生徒でもあります」
カズヤ先輩は目を伏せて言った。
「彼はまだ若い。この学園の生徒は、この世界の人間は、人を簡単に殺せない。情状酌量の余地があったのに」
カズヤ先輩の台詞はこの事態を他人事で哀しんでいるかの様だった。実際計算する能力で分かっていたんだろう。それをカズヤ先輩でも回避出来なかった。そういうことだ。
チラリと先輩はタマキを見る。タマキは頭を抱えてぶるぶる体を震わせていた。
「聞こえない。何も、聞こえない。その人、寝てるんでしょ?だから声が聞こえないんだよね?ねえ、丙さん。ひのえさん、何か言ってよ!丙さんッ!」
真っ青な顔でタマキはヒノエにすがりつく。ヒノエは答えない。答えられないんだ。
「……ごめん」
「なんで謝るのッ!?やめてよ!『あの人を殺してごめん』なんて思わないでよッ!」
タマキはその場に座り込んでしまった。
僕達は神隠し事件を解決した筈なのに、どうしようもない絶望を感じていた。

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