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完結記念に全部うpしちゃいます。
存在倫理の迷宮入り編。

零雨様の『最もシリーズ』と『本部シリーズ』がコラボ。
そして、零雨様に書いていただいた噂の本編でございます。

キャスト
榎本恭二(えのもときょうじ)
子供心の吸血鬼。
瀬戸氷河(せとひょうが)
凍てつく光の魔弾。
天城芳示(あまぎほうじ)
特攻鬼軍曹ガンナー。
大浦丙(おおうらひのえ)
微睡みのトラップ。
赤空核(あかぞらさね)
反面常識人。
多々角円(ほぼまるまどか)
ノンストップ重力。
一一哉(にのまえかずや)
計算の策師。
多々角環(ほぼまるたまき)
筒抜けの仲間想い。


※瀬戸氷河
俺の横に倒れている東西南北と、絶望する円達。俺達を見る円の目は人殺しを嫌悪する、普通の人間の目だった。いくら凄い能力を持っていても、彼らは俺達とは違った。普通の感覚を持った人だった。
そんなの、分かっていた事じゃないか。核達と魔物を倒した時、核ですら動揺していたんだ。人を殺してどうして受け入れられると思ったんだ?
「……違う」
円は東西南北を見つめて泣いていた。
「こんなの、違う。まだ引き返せる筈だ」
「引き返す?引き返せたって芳示さんが殺したという『事実』は変わらないんですよ?」
一哉が馬鹿にしたように言い放つ。そうだ、もし俺の治癒術で蘇生させられたとしても、「芳示が人を殺した」という円達の認識までは変わらない。
それでも。
「しないよりかは、マシだろッ!」
俺は東西南北の額に手を当て、魔力を込める。核の常識を覆す力で魔術が使いやすくなっている今、俺の治癒術も強化されている筈だ。『普通』に考えれば、人を甦らせるのは不可能だ。だからこそ、今なら出来る筈だ。
「生き返れ……ッ!」
「神血だからなのか。面白い考え方だね」
床に穴が出来ていた。
「え?」
死んだ筈の東西南北の手が、床に空いた空間の穴を通じて俺の足を掴んでいる。いや、それだけじゃない。目の前で倒れて死んでいる東西南北の顔が、体が、穴を通した空間から俺を見つめていた。
「そういう展開の方が。面白いだろ」
ニッと口だけ笑った東西南北が俺を空間へと引きずり込んだ。


穴の先の空間には芳示達も円達も居なかった。居るのは、俺と生きた東西南北とボロボロの格好をした赤空空木と、核。
「核ッ!」
床に寝かされている核に近付き、俺は急いで治癒術を掛けてやった。切れてしまった学ランは直らないが、腕はくっついた。うっすらと核の目が開く。
「瀬戸……?」
「核!」
「瀬戸が、治したのか?」
「ああ、治癒術も出来るから」
「どうりで腕が治らないと思ったぜ……」
フフ、と笑った核は体を起こす。核の力は常識を覆すから、俺が『出来る』から、核には『出来ない』のか。
「入口は仮想。出口は現実」
「今のはやり過ぎだ」
ぺしんと良い音を響かせ、赤空空木が東西南北の頭を叩く。さっきは東西南北を守って俺達を襲ってきた筈なのにどういうことだ?
「俺様は生徒の味方だ。だから東西南北が俺様を頼った時、俺様は東西南北の味方をした」
その方が面白いし、と空木は鋭い視線を俺に向ける。
「だが、これはやり過ぎだ。度を越えたものは叱って反省させる。道を正すのも教師の役目だからな」
「やり過ぎって……まず何が起こったかすら分かってないんだが」
何でさっきまでいた筈の芳示達が居なくなってて、死んだ筈の東西南北が生きているのか。核を見ても核も首を傾げるばかりだった。
「さっきのは想像空間。つまり空想」
「はあッ?」
「ボクがキミを繋いだ空間に通して捕まえた時。出口は同じ空間じゃなくて空想だったんだ」
つまり……俺が通った穴はただ距離を縮めていただけじゃなくて、異空間に繋がっていたという訳か。
「でも。この現実がキミの見た通りになる可能性だってある。だって一つの選択肢に過ぎないんだからね」
「氷河ッ!」
銃声が聞こえ天井を芳示が走って来るのが見えた。この場面……何処かで見たことがある。もしかして、あの空想の中でか?
「また邪魔者。だよ」
東西南北は顔を上げ、面白くなさそうに呟いた。
「ねえ。そろそろ放課後も終わっちゃうよ」
ハッとして東西南北を見る。彼は立っていた。芳示は――銃を持っているッ!
「やめろ、芳示ッ!」
俺は東西南北の前に立ち塞がった。
パァン!と、聞き慣れた銃声が聞こえ、俺の体が傾くのが分かった。


※多々角円
「ホウジ……今の、麻酔弾だろ?」
ホウジは犯人と思われる人物とヒョウガが向き合っているのを見付けると、迷わずホルダーから銃を取り出して撃った。その犯人の立ち姿と制服に僕は見覚えがあった。
「麻酔弾な訳あるかよ……実弾だ」
ホウジは大きく舌打ちし、僕はホウジの背中に居ながらも目眩を感じた。僕の見間違いでなければ、あれは隣のクラスの友達の東西南北紡で、ホウジの撃った弾が当たったのは――ツムグを庇ったヒョウガの腹部だ。
「ヒョウガッ!」
僕はホウジの背中から降りて倒れているヒョウガに駆け寄る……までもなく、ホウジが全速力でヒョウガに駆け寄った。
「いってぇ……」
運が良いのか悪いのか、ヒョウガは生きていた。
「氷河さんの悪運の強さか、『人は死なない』という学園のルールか、選択肢を変えたからか……」
くす、と微笑みながら追い付いたカズヤ先輩が呟く。選択肢を変えた、なんて随分思わせ振りな台詞だ。ヒョウガは傷口に手を当て治癒術を掛け始めた。ツムグは止めるでもなく、逃げるでもなく、その様子を見ていた。ていうか、僕達が苦労して足止めした赤空空木もいるし!
「安心しろ。俺様はもう貴様等と戦うつもりはない」
顔に出てたのか心を読んだのか、彼は僕の髪をクシャリと撫でてそう言った。色々聞きたいことはあったが、それ所ではないので黙っている事にした。
「氷河、悪い……」
「平気だから気にすんなって……」
ヒョウガが腹の傷を塞ぐのを確認してからホウジは銃を見て――僕は嫌な予感がした。
次の瞬間。
タマキがヒノエに抱き付いて止め、カズヤ先輩ははキョウジの腕を押さえ、僕はホウジの銃口を手で塞いでいた。
「何してんだよ?」
ホウジが忌々しげに舌打ちする。
「それは……こっちの台詞だ。今、何をしようとした?」
「殺そうとしたに決まってんだろ」
ホウジの口から意図も容易く吐かれた、吐かれてしまった言葉にサッと血の気が引いた。
「そんなの……駄目だッ!何でだ!?」
「なんで?それってこっちの台詞だよ。コイツが犯人なのになんで殺しちゃ駄目なの?」
キョウジも本当に疑問気に逆に質問をしてきた。僕は……一瞬で分かってしまった。僕達と彼らとでは、倫理観が違う。魔物を倒す――殺せる力を持っているが故に、任務の為なら非情になれる。それは相手が人でも、例外ではない。殺せるのだ。
「コイツは敵である魔術師だよ。殺しとかないとまずくない?」
ヒノエですらそんなことを言ってゾッとする。
「……コイツは魔術師である前に、釣木学園の生徒なんだぜ」
サネが言う事を考えているかのように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「それがどうした?生徒でも魔術師だろ」
冷たいホウジの言葉に、カズヤ先輩が溜め息をついた。ツムグが殺されてしまった未来が計算出来てしまったのだろうか。
「彼はまだ若い。情状酌量の余地があると核君は言いたいんです。それに……此処は貴方達の住んでいる世界ではない。人を殺したら殺人犯になるんです」
「……再犯の可能性は?」
ヒノエがタマキを気にしながら聞いてくる。カズヤ先輩はそれを聞いてニッコリと笑った。そういう演技をする計算なんだろう。
「彼、東西南北紡君には反省と償いが必要です。人の道を教える為に学校はあり、反省と償いを得るのに此処はピッタリの場所です。どうでしょう?」
「…………」
三人は黙って視線を合わせ、伺っている。どうするのか考えあぐねている感じだ。
「……めてよ」
「え?」
「やめてよ……」
タマキが、ヒノエにしがみついたまま顔を上げる。その目には涙が溜まっていた。
「丙さんが……皆が人を殺すところなんて、僕見たくないよ……」
ポロリと、タマキの頬を涙が零れる。
心が読めなくたって分かる、彼らの動揺が。タマキの言葉が決定打になったのだろう、彼らは武器を納めた。
「……ごめんね、環。うん、子供の前で人殺しとか、俺達どうかしてた」
ヒノエがぎこちなく微笑んでタマキの頭を撫でる。タマキは顔をクシャクシャにして更に泣いている。
「良かった……」
ヒョウガが苦しそうな顔をして笑った。
「意外だな?俺はお前も向こう側の人間だと思っていたんだが」
「まあ……間違っちゃいないけど……」
サネの質問にヒョウガが歯切れ悪く答える。彼には悪いが僕もホウジ達と同じ本部という組織に所属しているんだから、ヒョウガも同じ考えだと思っていた。
「……色々あるんだよ」
誤魔化された。

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