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コラボ番外編。

零雨様の『最もシリーズ』と『本部シリーズ』がコラボ。
零雨様に書いて頂いた噂の番外編。

キャスト
瀬戸氷河(せとひょうが)
凍てつく光の魔弾。
多々角円(ほぼまるまどか)
ノンストップ重力。
榎本恭二(えのもときょうじ)
子供心の吸血鬼。
赤空核(あかぞらさね)
反面常識人。


※瀬戸氷河
廊下を、歩いていた。
上を見ると円が俺の真上の天井に立っている。
「ヒョウガ」
「円」
「どうして、そんな所にいるの?」
円は不思議そうに聞いてきた。おかしいのは円の筈なんだが、俺は妙に申し訳無くなって俯いた。
「俺はそっちには行けないんだよ」
円は悲しそうに眉を動かす。
「そう……ヒョウガは、普通だもんね」
……そうだった。俺は普通だった。
俺は廊下を歩き出す。すると、円も俺に合わせて天井を歩き出した。廊下の先は永遠に続いていて肉眼では壁が見えない程に遠い。
「……遠いな」
「だって、まだ四分の一位しか進んでないじゃないか」
ああ、四分の一ならば確かにゴールが見えなくてもおかしくはない。俺は焦れったくなって走り始めた。円も天井を走っている。
「そんなに急いで、何処に行くんだッ!?」
「端にだよッ!」
生き急いでいる。死に急いでいる。そんな悲しげな声が円の口から零れた。いや、本当は円が言ったんじゃないかもしれない。俺の空耳かもしれない。だが、聞き逃す事は出来なかった。
「この道は、あまりにもつまらない!そんな道なら早く行った所で同じだッ!」
「でも、急に止まる事も出来ないぞッ!」
それを聞いて徐々に俺の足は動きが遅くなり、そして止まった。円も上で立ち止まっていた。確かにそうだ。走っていたら会える人にも会えなくなってしまうかもしれない。今のところそんな人なんて、すれ違いも通り過ぎもしなかったが。
今も景色は変わらず何の変鉄もない面白味のない廊下。
「痛い、な……」
円が唐突に呟く。
「痛いよ……」
ポタリ、と。
天井から血が落ちてきた。円は鎖骨辺りをしかめっ面で押さえていた。傷口を押さえる指の隙間から、血が滴ってくる。普通の人間とは違う、紅い血。
「円、その傷どうした」
「吸血鬼に噛まれたんだ」
普通じゃないから、噛まれてしまったんだ。哀れだ。とても、哀れ。
「哀れって、誰が?」
「お前が」
「そんなことない」
ムッとした声で円は返す。そして、俺に向けてパンパンと銃を撃った。威嚇射撃なんだろう、一発も当たらない。円はいつの間にか銃を持っていたのである。
「どうして銃なんか」
「生き残る為さ」
ニヤリと口角を上げた円は普段とはまるで別人の様であったが、ああそうかと俺は納得した。
「キャラじゃねえなあ」
「うるさいな」
俺はまたゆっくり歩き始めた。円も一緒に歩く。と、廊下の床から魔物が這い現れた。だが、俺を素通りして円の居る天井に落ちていく。
「魔物が!」
「分かってるよ」
円は銃を構えて落ちてくる魔物を撃つ。現れる。撃つ。殺す。
「キリがない。ヒョウガ、先に進もう」
舌打ちした円が歩き始めるので俺も遅れない様に着いていく。その間も円は魔物を撃ち殺し、円は傷付いていった。
「円!」
誰かが、魔物を斬って円に近付く。
「キョウジ!」
恭二だった。恭二はあっという間に円の周りの魔物を倒すと、円に抱き付いた。
「もーケガしてんじゃん!無茶すんなよな!」
「ちょっとぉ……」
恭二に困りつつも円は満更でもない顔で恭二に腕を回す。
恭二は、俺の物なのに。
「違うよ」
円が抱き付かれながら俺を見て笑っている。
「神血の、僕のもの」
違う、俺のだ。とは言えなかった。だって、そうなんだから。悲しくて、生暖かい物が頬をつたう。
「行こうよ。ヒョウガも、大事な人に会えるさ」
恭二と円は手を繋いで俺を待っていた。俺は袖で顔を拭いてまた歩き出す。胸に渦巻くのは、嫉妬と羨望と安堵。
ゆっくり歩く俺の道は、何も無いし何も起きない。平和そのものでつまらなかった。対する天井の円達は魔物に襲われ、傷付き苦しそうだ。でも、楽しそうだった。
俺は、ひとりぼっち。
「俺が居るじゃあないか」
後ろから声が聞こえた。
「核?」
振り返ると、学ランで赤髪の彼が居る。
「お前の、相棒だ」
「そっか」
天井は見なかった。俺は核だけを見て、核と手を繋いだ。
「行くぞ」
「ああ」
核が居るだけで、廊下は大違いだった。何故かは分からないが幸せだった。
「俺、幸せだわ」
「何故?」
「分かんねぇ。けど、核といると楽しい」
核は、立ち止まってしまった。俺は前に進みたいのに、彼が立ち止まっているせいで進めない。渋々俺も立ち止まる。
「恭二はいいのか?」
「……恭二は俺の物じゃなかったし」
上を見る。円が紅い血にまみれた天井に倒れていた。恭二を探したが、円の回りには誰も居ない。
「……先、進もうぜ」
痛々しくて俺は見るのを止めた。核は手を離して俺の後ろに立つ。
「核?」
「お前に先なんて無いじゃあないか」
「は?あるだろ……え?」
真っ黒。さっきまであった筈の廊下がない。暗闇。天井はあるのに、床だけが無かった。奈落。これじゃあ俺が――進めない。
「瀬戸、お前は此処で終わりなんだぜ」
とん、と核に背中を押され、俺は黒の空間へ落ちた。
「ッ、核!」
核は返事をしなかった。――当然だ。核は既に天井に居て、円と恭二と手を繋いでいたんだから。俺には届かない天井に行ってしまった。
俺が手を伸ばしても、届く訳が無かった。

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