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零雨様より、島原と小浜の話を頂きました!

季節感あふるる話。


・島原と甘党小浜
※島原洋斗
チリンチリン、と何処かで風鈴が鳴っている。
照り返しのキツいアスファルトを重い足取りでダラダラ歩いて着いた先は、ボロい一軒の店だった。
「……ここ?」
「そう、ここだ」
黒葉は偏見の目で店を眺めていたが、俺は構わず扉を横に開けて暖簾をくぐる。いらっしゃいませェ、と快活な声が狭い店に響く。
「ふーん……」
俺に続いた黒葉は珍しげに店内を見回す。俺は山下さん達に何度か連れてって貰ったことがあるから、初めてじゃない。席はどうやら満席らしく、俺たちは店の隅で待つことにした。
「何にするよ?」
「んー、洋斗は?」
「宇治金時」
「じゃあ僕はいちごミルクにしよっと」
ミルクはコンデンスミルクが上に掛かったかき氷だ。
「ソフトクリームも入れられるらしいけど」
「あ、それもいいなあ」
俺は黒葉のメニューに「クリーム」と付け加えた。クリームはかき氷の中にソフトクリームが入っている。俺は変わらずノーマルのままだ。
「黒蜜きなことかもあるんだねぇ」
「種類多くて良いよな」
俺はいつも宇治金時にしているが、黒葉は壁にびっしり貼ってあるメニューに目移りしている。まだ注文してないので変えられるが、変えるとしたら迷って時間が掛かりそうだ。
「変えるか?」
「うー……ん……いいや。次にする」
近くに置いてある紙に注文するメニューを書き込んで待つ。店内にクーラーは無く、扇風機が全開に回っているだけだった。しかし、こちらの方にはあまり風が来ないので暑い。黒葉も手を団扇代わりにしてパタパタと扇いでいる。
「お待たせしましたァ!あちらの席にどうぞー」
カウンターから声が掛かって俺たちは書いた紙を店員に渡してから席につく。席にはコップと氷水の入った容器。二つコップを置いて黒葉は水を注ぐ。
「ん」
「おう、サンキュ」
隣の席では子供のかき氷を母親が小鉢に移してあげている。店員が古いかき氷機を使ってせっせと氷を削っていくのを俺は頬杖をついて眺めていた。
「はい」
いつの間にか、俺の前におしぼりが置いてあった。黒葉が持ってきたらしい。
「カウンターに置いてあった」
「ああ、ここのかき氷すぐこぼれるからな」
「なにそれ、勿体無い」
こぼさないように頑張ろう、と密かに思って俺は水を一口飲む。結局いつも失敗してしまうのだが。
「宇治金時といちごミルククリームの方ー!」
「はァい」
黒葉がカウンターに置かれたかき氷を取りに行く。入り口近くの壁で先程の俺達の様に順番待ちの人が立っていた。外でウロウロしている人も見える。今日も随分な盛況っぷりだ。
「お待たせ、はい」
「サンキュ」
俺達はスプーン立てからスプーンを取り、同時に「いただきます」と言った。
初撃はいつも何処から攻めようか迷う。一番始めの攻撃でこれからの食べ方の方針が決まるからだ。俺は一瞬迷ってかき氷の八合目辺りにゆっくりとスプーンを入れた。穴を掘るように、でも抉りすぎない様に。上手くすくえた。口に運ぶ。
「……美味しい」
俺が賞賛の言葉を発する前に黒葉がそう呟いていた。
「だろ?」
「うん。お祭りで食べるのと違って氷が凄くきめ細かくて……ふわふわだ」
黒葉が何やらブツブツ言っているが、溶けてしまうのでそこから先は流して攻略に再び集中することにした。
二撃目。これも重要だ。いや、序盤の攻撃は全て神経を使うから、少しの気の緩みも許されない。俺はスプーンを持っていない方の手をしっかりおしぼりで拭く。序盤で上の方ばかり食べていたらシロップがかかっていない所が残ってしまう。ので、両方バランス良く食べていく必要がある。普段はこういう事に大雑把な俺だが、美味しい物は出来れば美味しく食べたいと思うのは当然だ。
こんもり盛られたかき氷の器から少しはみ出した部分を下から上にスプーンを動かしすくいとる。それに頂上の沢山シロップが掛かっている所もすくい、良い感じにする。食べる。美味い。
「あっ」
目の前でそんな声が聞こえたので顔を上げると、黒葉のいちごミルククリームの塊が落ちていた。しかも結構多い。
「罠にはまったな」
俺が笑うと、黒葉は悔しそうに睨んできた。勿体無いので、テーブルの上の塊をスプーンでさっとすくって食べてやる。いちごも中々美味い。
「意地汚い」
「いーだろ」
いちごミルククリームを味わっていると、黒葉のスプーンが俺のかき氷に伸びてきて上の一番美味い部分をかっさらっていった。
「あっ、おい、てめぇ!」
「ちまちま食べてる洋斗が悪いのさ」
フフン、と得意気に笑って黒葉は宇治金時を口に入れる。その様子を見て怒るのが馬鹿らしくなって、俺は宇治金時攻略を再開した。


「美味かったか?」
「うん、美味しかった」
「ここ夏しかやってねぇんだよ」
「そうなんだ……」
「また、来年も連れてってやるよ」
「……楽しみにしてる」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
というわけで、前作の続きですね。
島原と小浜の夏トークが続きました。

本当はいろいろ種類があったようですよ。
かき氷というチョイスが島原らしい。

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