友人に捧げた入門者向け本部シリーズ。短編です。
全20話で、全員分の日常が綴れたので、こちらにも上げておきます。

留川、杉森、皆神編。

※篝祇亜須磨
次に向かうのは、皆神さんの部屋だ。
普段は武器庫の管理をしている皆神さんだが、今日は留川さんと杉森さんと一緒に話をしているらしい。
ドアをノックする。
「どうぞー」
皆神さんの気の抜けた声がしたので、部屋に入る。
中に入ると、留川さんたちが珍しく真面目な話をしていた。
それを気遣ってか皆神さんが俺に尋ねる。
「どうしたの、亜須磨？」
「白河さんからの伝言です」
「あぁ？んなのメールでいいだろ？携帯持ってない奴なんていないんだから」
真面目な話をしていたはずの杉森さんが怪訝そうに俺に聞く。
白河さんの気分なんて俺も分からないんだけど。
「分かんないですよ。白河さんの考えなんて。」
「だよなー……。古い付き合いの俺でさえ分かってねぇんだから」
杉森さんは一度白河さんから逃げ出した人だ。
嫌っているわけではなく、付き合うとろくな目に合わないと愚痴を聞いたことがある。
留川さんが話を戻してくれた。
「んで、用はなんだって？」
「明日、１２時までにラウンジに集合だそうです。」
「までに、って言葉が引っかかるが……了解した」
留川さんがメモに書きとめ、ペンを放り投げる。
「んなことより、亜須磨」
「なんですか？」
留川さんがある資料を俺に見せつけて尋ねる。
よく見るとそれは留川さん自身が改造した武器カルネージ・ラースの設計図だ。
「これにさらに改造を加えたいんだが、いい案はねぇか？」
「聞く相手間違えてませんか？聞くなら神崎さんでしょ。」
俺は武器の改造とかメンテナンスに詳しいわけじゃない。
それなら専門の研究者にでも聞けばいい。
ここにはそういう分野の天才、神崎さんがいるんだから。
「神崎も新しい実験で忙しそうだったからな。先に案をいくつか出しておこうと思ったんだ。そこで『無個性』のお前なら斬新なアイディアを出してくれるんじゃねぇかと思ってな」
「『無個性』の意味、間違えてますから……」
皆神さんも手を合わせてお願いします、と言う。
困ったけど、一応留川さんから設計図を貰って見つめる。
杉森さんが更に今までの案をまとめた紙をくれた。
その中身が留川さんらしいのか、火力をあげることしか考えていないような案ばかりだった。
「……ほんとに吹き飛ばすことしか考えてないんですね。」
「あったりまえだろ。」
さも当然かのように答える留川さん。
それが大問題を起こしていることに気付いていないようだ。
「この前、誰か巻き込んで怒られてませんでした？」
「あー……誰だっけな。忘れちまった」
それには皆神さんが答える。
「最近だったら、雨境じゃなかった？何故か僕がさんざん愚痴られたし……」
「後、氷河だな。負担増やすな、って言われただろ、留川」
「んなの覚えてねぇな」
二人に散々言われてるのに、頭を掻いていて全く反省する気のない留川さん。
呆れ果てた俺は、留川さんに資料を返して、嫌味のように提案してやった。
「もう少し命中精度を上げた方がいいと思います」
「つまんねぇ意見だが、取り入れとくか。」
留川さんは放り投げたペンを拾って、俺の意見をメモに書いた。
そして、また杉森さんとの話し合いに戻った。
出て行こうとすると皆神さんが、こっそり俺に囁く。
「ありがとね、亜須磨。僕がそれを言っても突っぱねられちゃうからさ」
「皆神さんも苦労してますよね……」
皆神さんは小さな不幸に見舞われやすい人だ。
破壊神の留川さんと杉森さんに気に入られてるだけでも小さな不幸の始まりだ。
最初は嘆いていたが、彼より不幸な人物が来てから明るくなった。
更に下がいると分かったからだろう。
「じゃあね、今度何か奢るよ」
「ありがとうございます」