友人に捧げた入門者向け本部シリーズ。短編です。
全20話で、全員分の日常が綴れたので、こちらにも上げておきます。

宮代、伊塚、瀬神編。

※篝祇亜須磨
次は宮代さんの部屋かな。
秋夜と瀬神さんはよく宮代さんの部屋でお菓子を食べていることが多い。
宮代さんの料理はこの本部では評判で、彼がキッチンに立っているのを見ただけで人が集まってくるぐらい。
かくいう俺も宮代さんの料理は好きで、よく食べに行ったものだ。
なんであの人は魔物討伐なんてしているんだろう。
街でレストランでも開けばいいのに。
部屋に入ろうとする前に秋夜とばったり廊下で出会った。
「あ、亜須磨じゃないっすか！」
「秋夜……大丈夫だった？」
なんだか疲れているようだ。
さっき路也に襲われたはずだから当然か。
「ああ、聞いてよ！俺、路也に斬られそうになったんすよ！」
「うん。知ってる。」
「宮代さんがお菓子で手を打ってくれなかったら俺死んでたっすよ！」
宮代さんが追い払ったのか。
どうりで剣は血に塗れてなかったわけだ。
これで斬られてたら、もう一人機嫌悪くなる人もいるし。
「おーい、秋夜ー。ガトーショコラどうすんの？」
その宮代さんの声がした。
秋夜はすぐに行くっす！と返事してから、俺の手を取る。
「亜須磨も、どうっすか？」
「行くよ、用があるし。」
「なら、決まりっすねー！」
上機嫌で俺を引っ張る秋夜。
あっという間に部屋に連れ込まれた。
部屋に入ると宮代さん達がスイーツパーティをしていた。
テーブルに並べられた色とりどりのお菓子。
完全に空気が違う。今までの奴は何してたんだ、と思えるぐらいに。
「お、亜須磨も一緒か。十分用意してあるからいいけどさ」
急に俺が来ても、宮代さんは気前よく俺の分のお菓子まで用意してくれた。
「なになに？亜須磨もつられてきたんだろ？」
瀬神さんがにやにやと笑って聞く。
「本当に用事があるんです」
俺は先に宮代さんに茶葉を渡す。
「小浜さんから、ですよ」
手に取って宮代さんはすぐに何のことだか分かったらしく、茶葉の缶を見ただけで感嘆した。
「おお、これが新しいやつね。アールグレイかぁ……」
宮代さんは茶葉の缶をお菓子を並べたテーブルに置く。
それだけでもお洒落な小道具に見える。
「後、全員明日１２時までにラウンジに集合だそうです。」
「１２時っすね、了解っす！」
秋夜が敬礼をする。
俺にしなくていいよ、それは。
「まーまー！亜須磨も食べてからいきなよ！」
瀬神さんが目の前のチーズケーキを頬張りながら、フォークで俺に用意されたガトーショコラを指す。
休憩がてら一口食べる。
やっぱり宮代さんはパティシエの才能があると思えるぐらいにうまい。
並のケーキ屋では太刀打ち出来ないだろう。
「宮代さん」
「パティシエになればいいのに、って話なら乗らないぜ？」
「読まれてましたか」
「俺にとってお菓子作りってのはただの趣味だからな。」
「趣味でこれだけおいしい物が作れれば通用しますよ」
「でも、パティシエになったら、好きに暴れられないだろ？」
宮代さんは暴れることが好きだから、ここにいるのだと言っていたのを思い出す。
この暴れたがる癖がなければ、完璧なパティシエなのに。
ガトーショコラを食べ終え、部屋を出ようと立ち上がる。
「待ってくんない？」
「はい？」
宮代さんが小さな箱を渡す。
ケーキを入れるのによく使う箱だ。
「その茶葉の缶は氷河の分だろ？ついでにこれも渡してくんねぇかな？」
「これは？」
「献上品のチーズケーキでございます、とでも言えば分かるだろ」
「あぁ……分かりました」
献上品なんて言ったら、彼は困ったように笑うだろうけど。
それを受け取ると、宮代さんが微笑む。
「頼んだぜ」
楽しげなお菓子パーティを後に次の部屋へとむかう。