友人に捧げた短編集。
今回は、ハーレムをテーマに書いてみました。


灯野あさぎ編。

※瀬戸氷河
「氷河さん！お金稼ぎをしましょう！」
「は？」
天気のいい朝、あさぎちゃんが突然いきなり俺の部屋に来て言い出した。
あさぎちゃんがお金が大好きな守銭奴なのは知ってる。
その金銭欲だけはずば抜けて異常で、お金の為なら死ねると言い切ってしまうほど。
兄である灯野路也にしても俺としてもそれは困るので、誰か人をつけてあさぎちゃんに無理をさせないようにしている。
「どういう意味で？」
起きたばかりでぼんやりしている思考じゃ、何も想像がつかねぇ。
あさぎちゃんに改めて聞き返すと、あさぎちゃんは眩しい笑顔で答える。
「氷河さん、お宝換金すらも必要ない素晴らしい方法を思いついたんですよ！けれど、それは氷河さんの協力なくしては出来ない事でして……」
「言ってみなよ、俺に出来ることならやってやるから」
「ありがとうございます！」
俺だって金が欲しい。
使い道は特にねぇんだけど、あればあるだけ幸せになれるってやつ。
どっかに行って危険を冒してでも金目の物を漁ってくるってやり方よりいい方法があるなら、是非聞いてみたい。
あさぎちゃんは、饒舌に概要を話し始めた。
「街の人々を氷河さんの治癒術で癒す代わりに、お金を取るんですよ。いわゆる病院ってやつです。街の病院の機能は未だ回復しておらず、人を助ける術は教会が全て総取り状態。これはどういうことかって言いますと、人を癒す医療市場は教会の独占状態なわけですよ。これは値段を決められるのも教会となってしまい、教会が理不尽に儲けることが出来てしまいます。教会はこれをボランティア精神の行為と言っておきながら、最低限のお金は請求してきます。そんなのボランティアでもなんでもないですよね。ですから、その市場にボクと氷河さんで割り込みをしようというわけです！」
「朝っぱらから、物凄いこと言うな……」
思わず頭を抱えてしまう。
なんであさぎちゃんが市場とか語りだすんだよ。経済知識ありすぎてかえって心配になる。
「大丈夫ですよ、最初は赤字覚悟で値段を落としますが、氷河さんのルックスならだんだん値上げしてもリピーターついてきますよ！」
「いや、そういうリピーターはいらねぇ」
俺の為だけに死にかけに来てくれそうだ。
正直迷惑でしかない。
「とりあえず、あさぎちゃんの計画は分かったよ。」
「はい、どうですか？」
「けど、却下だな」
「えええー！？」
あさぎちゃんが驚いて珍しく大声を出す。
採用されると思っていたのか。
まぁ、確かに『俺に出来る事』ではあるけれど。
「俺にそういう活動が出来るわけないだろ。それほど人が好きなわけでもねぇしさ」
「人間なんて金づるだと思ってください」
「できねぇから。それに、あさぎちゃんは知ってるだろ？俺が傷見るのだめだって話」
俺は治癒術師でありながら、最大の欠点を抱えているわけだ。
誰かの傷を見るだけで昔を思い出す。思い出したくもなかった凄惨な光景。
そのせいで普段よりも魔力を多く消費してしまう。
使えないってよりはマシだと思っているが、制御が出来ないというのもなかなかの欠陥だと指摘された。
「あ……。まだ、慣れない、ですか？」
気付いたあさぎちゃんは先ほどの態度と変わり、申し訳なさそうに俯く。
「悪いけど、いつまで経っても慣れそうにない。いや、むしろ慣れてしまうことに怯えてるのかもな。」
そう、自嘲する。
散々人を殺しておいて、未だに慣れないってのもおかしな話だ。
「ごめんなさい、私、氷河さんの気も知らずに馬鹿な提案をしてしまい……」
「気にすんなよ、あさぎちゃん」
あさぎちゃんの頭を軽く撫でる。
「やはり金目の物を拾いに行くことしか大金稼ぎは出来ませんね……。いつも皆さんにご迷惑をおかけしてしまうので、どうにかしようと思ったんですけど……。」
「あさぎちゃんなりのアイデアだろ？気にかけてくれるだけで十分だよ。」
「ありがとうございます、氷河さん。」
落ち着いたのかドアの前まで離れ、丁寧に一礼をするあさぎちゃん。
「今度、何かありましたらボクに任せてください！」
「頼られねぇようにするよ」
いや、本当に。
あさぎちゃんに助けられるような事があったら、立ち直れない。