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友人に捧げた短編集。
今回は、ハーレムをテーマに書いてみました。

来鈴舞皆編。

※瀬戸氷河
堕落した雇い主を持つと、苦労するのは生真面目な人間とただただ巻き込まれた人間だ。
そのうちの生真面目な秘書である来鈴さんは、普段からストレスが溜まっていた。
その愚痴をたまに聞いている。
誰かに話す機会でも用意しないと、彼女は本当に壊れてしまいそうだから。
こういう事してると、本当に聖職者になったみたいだな。
教会で懺悔を聞くのと同じような事をしているわけだから。
今日も来鈴さんは、ラウンジでぐったりと机に突っ伏していた。
気になって近づくと顔だけ上げる。
寝不足みたいで目にクマが出来てる。
「氷河さん、私もうだめだわ」
「……来鈴さん?」
「いつまで経っても書類が片付かないのよ……あの堕落した男のせいで」
声のトーンまで低い。
これはまずいかもしれないな。
「コーヒーでも入れようか?」
「いいわね、聞いて下さる?」
「じゃ、待ってろ」
食堂に戻って、コーヒーを入れる。
余談ではあるが、本部に用意されている食材、素材はどれも並以上の物ばかりだ。
理由はとても単純で食材を仕入れてくる人のこだわりが強いからだ。
その一人である藤野さんは「貴族様の氷河の為だよ、決まっているじゃないか」と言ってくれたが、あれは嘘だろう。
嘘くさい笑顔だったし。
だから、当然コーヒーもインスタントとドリップの二種類が用意され、珈琲豆まで完備している。
……少々行き過ぎたこだわりではないだろうか。
ラウンジに戻ると、来鈴さんはすっかり落ち着いていた。
コーヒーを手渡し、一口啜る。
「貴方、入れるのうまいわね……。」
「ん?ドリップかインスタントか言ってないだろ」
「味でわかるわ。インスタントの味がしないもの。」
「そりゃ嬉しい言葉だな。」
来鈴さんの向かいに座る。
そして、コーヒーカップを同じタイミングで机に置く。
「はぁ、あの人いつか痛い目みないと分からないわよね……」
「木津樹さん、だろ?」
木津樹甘良。この組織の参謀を務めている男だ。
俺はこの人がとても苦手だ。
木津樹さんは人が好きな人間至上主義の人だ。
人間以外、つまりは魔族だの魔物だの妖怪だのを全て嫌う。
それは俺の血の事も例外ではないようで、嫌われているからだ。
血の事もあるし、俺の能力が人並み以上だから恐れられているのかもしれない。
人の真似なんて完璧に出来るはずがないのに。
「あの人の無能っぷりはとんでもないわよ。仕事サボるわ、忙しい中ケーキを要求するわ、なんでも人に押し付けるわ……。思い出しただけでも殺したくなる。」
冗談であればよかったが、彼女の目は真剣だ。
恐らく本気で殺したいと思っているのだろう。
「一度、書類上の仕事全てしくじらせて、白河さんにこっぴどく叱られればいいのに。反省という文字がないのよ、あの男には。一度、痛い目に合わなきゃああいうのは治らないわ」
「馬鹿は死ななきゃ治らないって言うよな」
「馬鹿というか無能ね。今回は無能は死ななきゃ治らないって事よ。ああ、もう死ねばいいのに」
来鈴さんがコーヒーを一気に飲み干す。
そして、真っ直ぐな目が俺を捉える。
彼女らしい凛としていて温かい目だ。
「氷河さん、あなたも何か抱えているのではないかしら?」
「あ、いや、別に――何もない」
急にこちらの話に振られてしまい、思わず目を逸らしてしまう。
そんなに目に見えて憂欝だったか?
「木津樹さん、貴方に冷たいわよね。それを気にしているのかしら?」
「…………」
「大丈夫よ。あんな奴の言葉など聞くに値しないわ。あの人の人間至上主義の発想がおかしいだけ。大体、氷河さんだって被害者であるはずなのに、理不尽に化け物呼ばわりだなんてひどい言い草だわ」
「事実じゃないか、舞皆」
いつの間にやら俺の背後には、木津樹さんが立っていた。
その姿を見た来鈴さんが舌打ちをする。
「彼は人に扱えぬ魔術を扱い、人の技を全て盗み取る。更に言ってしまえば、迷いなく人を打ち殺してしまうし、いくら傷をつけても魔力がある限りは死ぬことがない。これを化け物と言わずしてなんというんだよ。」
「相変わらずの冷たい言い草ね。氷河さんだって本意ではないことを知っているくせに。」
木津樹さんがその言葉を嘲笑う。
まるで予想されていたかのようだ。
「本意ではない?血と魔術の件はそうだったとしても、人の技を盗み取ったり、誰かを殺すことは本意ではないのかな?」
これは俺に向けられた問いだ。
ならば、答えるしかない。
「……確かに、それを選んだのは俺の意思だ」
予想通りの答えが返ってきた事で優越の笑みを見せる木津樹さん。
ほらみたことか、と馬鹿にされている。
「そうだろう。僕だって敵対する人間を殺してしまう事があるが、彼は大量殺人犯だ。この世界が平和であれば、とっくに死刑だよ」
「平和じゃねぇから許されるんだよ。一度、こちらに剣や銃口を向けるなら、それは俺の敵として認識される。殺さなければ、俺が殺される。だから殺す。その繰り返しだ。」
「そういう考えが出来るから、僕は君が嫌いなんだよ」
「ああ、分かってる」
立ち上がり、コーヒーカップを二人分持つ。
「……失礼します」
先に二人の元から立ち去った。
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