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友人に捧げた短編集。
今回は、ハーレムをテーマに書いてみました。

古川宇美編。

※瀬戸氷河
街を歩いていると、古川に声をかけられた。
楽譜を抱えており、何やら困っているようでもあった。
「氷河さん!助けてくれませんか?」
古川の方から頼みごとをしてくるなんて、珍しい。
「助けるってなにすればいいんだ?」
「街の小さなホールで一曲歌うんですけど、その時のピアノさんが体調不良で休んでしまって……これ弾いてくれませんか!?」
と、古川に渡されたのは抱えていた楽譜だ。
ぱらぱらと中を見てみるが、難度の高い曲ではなさそうだ。
古川は俺の音楽趣味に付き合ってくれる歌手だ。
本当は歌手ではなく盗賊なのだが、俺が彼女に頼むときは歌手としての彼女に頼む。
たまにピアノを弾く俺に付き合ってくれる唯一の女性だ。
いつも頼んでる立場の俺が、これを断れるはずもない。
「いいぜ、どこに行けばいい?」
「ありがとうございます!こっちです!」
古川が俺の手を引き、街の人ごみをかけぬける。
さすが盗賊だというべきか、するすると人の間を抜けていく。
気付けば貴族街にある小さなホールまでついた。
中に入り、準備をしつつ俺は古川に尋ねた。
「何してたんだ?」
「商売ですよ。盗賊やるにも資金が必要だって理堂が言ってたから」
赤塚理堂。
武器を専門に奪う盗賊だ。武器を狙うのだから本部や軍部が対象となっている。
赤塚も古川も演じることが得意で、誰かになりすまして内部に入り、獲物を奪う。
彼は何か大義な理由を持って武器を奪っているのだと亜須磨に聞いたのだが、俺はそれをよく知らない。
しかし、古川を惚れこませるような理由であったのには、間違いないだろう。
「資金集めで演奏か。なかなかいいこと考えるじゃねぇか。」
「貴族相手にはこのような娯楽で十分なのですよ。暇人ですから。」
「そりゃ言えてるな」
古川と笑いあう。
庶民の味方の盗賊と落ちぶれた不良の俺はどこか話が合うのだろう。
古川は衣装を整えつつ、俺は楽譜を読み込みながらも、話を続ける。
「そういえば氷河さんだって、貴族でしたよね?」
「元小貴族。別に有名でもない家だった。とっくに潰れたしな」
「気にしてないんですね、さすが……」
「肩身が狭いだけなんだよ、あんなの。俺は暴れてる方が性に合ってんだから。」
「一気に不良にまで落ちましたよね……氷河さんって。もったいないなぁ」
時計を見ると、古川が慌て始める。
開演時間が近いのだろう。
「急いで下さい!始まっちゃいます!」
「分かった!」
開演数分前に客席の方をちらりと見ると、満席状態だった。
こりゃ儲かるだろうな、羨ましい。
ステージに古川が立ち、こっそりと合図を出す。
それを受けて、演奏を始める。
古川の歌は、透き通るように美しいもので弾いてる俺も楽しい。
恭二のいない間の暇つぶしとして家にあったピアノを楽譜通りに勝手に弾いたのが、俺のピアノ趣味の始まりだ。
元は母親が弾いていたものらしいのだが、すっかり弾かなくなっていたので俺が勝手に拝借したわけだ。
俺のこの趣味を知るものは、貴族時代の名残なんだから生かせばいいのにもったいない、と口々に言うがそんなの生かすつもりもない。
あくまでもこれは暇つぶし、なんだからな。
演奏を終え、一足先に楽屋に戻る。
楽譜を置いて、彼女に知れることなく逃げ帰ることにしたのだ。
しかし、それを読まれていたのか、俺の荷物の傍に手紙があった。
『氷河さんの事なので逃げるだろうと思い、これを書いておきます。
 また何かいい曲を見つけましたら、私を呼んでください。
 盗賊稼業やお金稼ぎではなく、古川宇美個人として協力いたします。』
気遣いに感謝しつつ、ホールを後にした。
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