貴方を閉じ込め、優越に浸る。

・ケージインラブの魔術師
※瀬戸氷河
檻の中に用意されたものは、必要最低限なものしかなく、諦めて利用するしかない。
どうやって逃げ出そうか考えていると、魔術師が現れた。
「夜ご飯を持ってきたよ」
魔術師が、晩飯を持ってくる。
置かれたのは、ペペロンチーノ。
なんでだろう。
「君の口にあうと嬉しいな。」
格子越しにどうやって食わせるつもりだと思っていたら、空間をあけて差し出してきた。
魔術師らしいことしやがって、と舌打ちしつつそれを受けとる。
「毒は、入ってないよな？」
「当然だよ。僕は君を殺すつもりはないって言ったじゃないか。そのペペロンチーノに毒はないし、そっちのコーヒーにも毒はない。」
「至れり尽くせりで……気持ち悪いな」
恐る恐る一口食べる。
不味くはないが、上手くもない。
「どうかな？」
「普通」
「それは残念だ。次こそ君を満足させよう。」
魔術師はやれやれと肩をすくめてどこかへいってしまった。
とりあえず出されたものは完食して、コーヒーを飲みながら、格子を調べた。
この檻には入り口がない。
全てドアのない格子で閉ざされている。
それはあの魔術師が空間術に長けているからだろう。
「ここにずっといればおかしくなる……早く、ここから出ねぇと……！」
出たいと焦っても出口はない。
魔術でこじ開けるともできない。
なら、蹴り壊すしかない。
幸い、素足じゃねぇんだ。
爪先を軽くつつき、構えをとる。
「はっ！」
慣れたハイキックをする。
欠陥がなければ当然なんだが、びくともしない。
痛むのは、俺の体だけ。
「ダメか……！」
何度もやれば壊れるかもしれない。
そう信じて何度も繰り返してみたが、全く壊れなかった。
疲労と痛みで膝をつく。
「はぁっ……はっ……どうなってんだよ、くそ……！」
顔をあげると魔術師が目の前にいた。
「もう、寝たらどうかな？」
「魔術師……！」
睨むが、魔術師はにやにやと笑うだけだ。
「無駄な努力だよ、やめなよ。君には傷ついてほしくない。だから、檻を用意したのに、君にはどうしても傷ができてしまうんだね」
「うるせぇ……ッ！」
「困ったなぁ、拘束はしたくないんだ」
「ふざけんな、今でも十分拘束だろうが！」
痛む足を堪えて立ち上がる。
「拘束じゃない。保護だよ。そういう愛情表現なんだよ。だって外に出せば君はまた他の魔術師にとらわれてしまう。だから、守っているんだよ、僕がね。」
「囚われる前に、てめぇだって、他の魔術師だって、殺せばいいだけだろ。保護になってねぇよ、こんなの。」
「出来ないだろう、弱い君じゃあ」
「なんだと……？」
今の言葉で、俺の中のなにかがキレた。
「俺が弱いだと……？勝手に決めつけんなよ、魔術師が！」
格子を掴み、吠える。
「てめぇみたいな卑怯な魔術師に、言われたくねぇんだよ！いちいち気持ち悪いことしやがって、ふざけんなッ！俺は絶対にここから逃げ出して、てめぇを殺すからな！」
魔術師は驚いた様子だったが、すぐにくすくす笑い出した。
「君はそうやって怒るんだ」
「はぁ？」
「もっとクールなやつだと思ってた。焦ってるのかな？確かに僕みたいな魔術師は早々いないからね。そうやって恐怖心をごまかしてるのかな？だとしたら、かわいいな、君は」
「見透かしたような事言ってんじゃねぇ……気持ち悪いんだよ、てめぇは……！」
「ふふふふふ、もっと言ってよ。僕は君が好きなんだ。どんな君でもいい。受け入れてあげるから」
「うるせぇッ！だまれ黙れ黙れ魔術師！お前の言葉も声も気持ち悪いんだよ！」
魔術師の言葉を切って怒鳴る俺。
魔術師は肩をすくめる。
「あーあ。嫌われちゃったなぁ」
「覚悟しとけよ、すぐに脱出してやるからな！」
「はいはい、待ってる待ってる」
「な、調子乗んなよ、てめぇ……！」
魔術師はけらけら笑いながら、消えた。
安堵してか自分を抱き締めていた。

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氷河罵倒集。
怯えてるだけ。