あいつらが出てこない事件のはなし。

・ケージインラブの魔術師
※瀬戸氷河
雨境に背負われて、街の小さな宿屋についた。
道中は、津川さんが茅野から送られたメールを見ながら、雨境に指示を出していた。
茅野の手配はなかなかのもので、街では受け入れがたい本部に珍しく好感のある宿屋を用意してくれていた。
雨境が入ると、茅野がすぐに降りてきた。
「あ、あなたは！」
雨境をみるや嫌そうな反応をする茅野。
彼女の本部嫌いはまだ直っちゃいないからな。
「よー、久しぶりじゃん！」
才臥が軽く手を振る。
茅野はすぐに不機嫌になり、怒り出した。
「何が久しぶりですか！本部の方だったんですね！私、てっきりお優しい街の方かと思っていたのに……」
「騙すようでごめんね、茅野さん」
津川さんが出てきて、事情を話した。
茅野は津川さんの話はちゃんと聞いていた。
雨境や才臥が嫌いなだけかもしれない。
こちらです、と茅野が部屋に案内する。
ドアを開け、椅子を用意する。
「背中の刺し傷を治しますので、そこに降ろしてくれますか」
「氷河さ、たって歩けない？」
雨境は、足を止めて俺に聞いた。
「……雨境がそんな器用なわけないよな。分かったよ、早くおろせ」
雨境が黙って俺をおろす。
「氷河、キスの約束は果たしてよ！？これでなかったことにするなよ！？」
「分かってるよ！うるせぇな！」
怒鳴ると傷口に響く。
茅野がそんな雨境を睨む。
「貴方、出ていってもらいますよ？」
「茅野ちゃんには俺の必死さが分かんないんだよっ！」
「わかりませんよ、そりゃ……」
茅野まで呆れさせた雨境。
「そんなやつは無視しろ。茅野、これでいいか？」
茅野は軽く背に触れる。
「ええ……」
茅野が治癒術を発動させる。
自分を治すのに何度か使ったことがあるが、俺のと茅野は違う。
瞬時に傷口を塞ぎ、痛みがなくなる。
その魔力と性質が違う。
俺の自分への治癒術は完治はしない。
手早く済ませるために魔力を集中していないからだ。
俺がかける治癒術はかなりの集中がいるからな。
それは他人を治すときだけにしている。
雨境達は茅野の治癒術を見て、驚いていた。
「やっぱ氷河のって二流なんだね」
「だな。茅野のが丁寧じゃん」
「ちょっとそんなこと言うのやめようよ」
「てめぇら、回復すんのやめるぞ」
雨境と才臥が、微笑む。
「氷河に傷を直してもらえるってのに意味があるんだよ。力なんて関係ないさ。」
「俺、氷河が魔力切らして倒れるぐらいの脆さってか繊細さ好きだよ」
「喧嘩売ってんのか……っ！」
急に毒が回り、胸を押さえる。
俺には傷だけじゃなくて、丙の毒も残ってるんだった。
「氷河さん、辛いでしょうからベッドで寝てください」
茅野がベッドへ誘導する。
大人しくそれに従う。
「毒は……まだ余裕がありそうね」
「神血は、多少毒に耐性あるからな……」
「だからって、自分に刺すなんて無茶はだめだよ」
津川さんが、たしなめるようにいう。
それを聞いた茅野も、悲しそうに呟いた。
「ほんとですよ、氷河さんが死んだら、私……。」
「……死にはしねぇよ。絶対」
「氷河のその言葉って、不思議だよね。信用できない」
「津川さん……」
「だから、心配する俺たちがいるんだよ、きっと」
そう笑う津川さん。
まんざらでもないようだ。
「じゃ、やってみるわ……」
茅野は聖書を手に魔力を込める。
すぐに毒は消えた感覚がした。
起き上がろうとすると、茅野が俺を押し戻す。
「ダメです、寝ててください！」
「な、別にいいだろ？」
「ダメです。一日安静にしててください。」
茅野の目が本気だ。
諦めて布団を被った。
津川さんが、ドアを開けた。
「氷河、俺たち白河さんに報告にいくね。今日はそこにいて」
「え、ちょっと俺もいくって……」
才臥と雨境がにやにや笑う。
「氷河は看病されてなよ！」
「後で、ご褒美頼むよ！」
「え、おい、待てって！」
ドアは無情に閉められた。

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まだつづくわ、これ。